目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

5話「肉体って不便じゃね?」


「マスター、何ニヤニヤされているんですか? 気持ち悪いです――」

ヒメミの冷たい視線を感じて、俺は物思いから覚めた。

「あっすまん、ちょっと妄想を……」

「で、殿、拙者たちは何をすればよいでござるか……命じていただければなんでも致しますぞ、どんな相手もこの剣で一刀両断に!」

「いや、その、知恵を貸してほしいのだ。俺は今、ちょっと理解しがたい状況に置かれていて、その原因というか……現況が分からないのだ」

俺は、どれだけAIたちが理解してくれるか分からなかったが、自身の置かれている状況を必死になって説明した。

皆黙って聞いてはいるが、メタバースしか知らないAIたちに、ここが仮想空間世界であり、現実世界が別にあって、肉体というものや生物というものがある事を理解させるのは無理ではないかと思えた……。

だいたい、AIに自己というものが存在するのか?

AIは自分で考える、思考できる物と言っても所詮は人間が与えた知識や教養を上回るほど、まだ進化してはいないだろうし、この俺の下手な説明を彼女たちがどこまで理解できるか極めて怪しい。

「ようするに、私たちがいる世界と、マスターのいる世界をマスターは自由に行き来出来ていたのに、それが出来なくなったという事ですよね」

やはり最初に理解を示したのはヒメミだ。

「マスターは元の世界に戻れなくなっている原因を知りたいという認識でよろしいでしょうか? また、マスターはこの世界は自分の脳内だけに存在し、現実世界ではないという疑問をお持ちの様ですが」

「――そのとおりだ! 凄いなヒメミ、俺の言いたいことの確信を捉えているぞ、さすが第一秘書だ」

「お褒めいただきましてありがとうございます。ただ私自身はココに存在していて、これが現実であるという認識以外はできません。なので、マスターがマスターの世界に自由に戻れない原因を探るというお手伝いしかできないと思います」

「わかった。たしかにそうだ、それでいい。一緒にその原因を探って欲しい。そうすれば、俺が今ここにこうしている原因が掴めると思う」

「かしこまりました。みなさん、いいですね。マスターのおっしゃったこと、分かりましたか?」

「はいっ、えっとー、質問です」

「なんですかミサキ」

「えっと……その肉体? とか、物質世界とか……よく分からないんですけれど……」

「それは私もおおよその推測しかできませんが、肉体がないとされる私たちとの違いは、私たちはこの部屋の壁に触れて、抵抗を受けて押し戻されることができますが、その気になればパラメーターを変えて、壁を通過することもできますよね。それが私たちが肉体を持っているかどうかということだと推測しています。まあ私たちを形作っている信号も、物質でありますから、非物質というものではないとは思いますが」

凄い分かりやすい説明だ、やはりヒメミは俺よりずっと賢い。

自分で認識できないはずの概念も、推測できてしまうのだ。

それと、確かにデジタル信号であっても物質といえば物質か……。

俺の概念自体が間違っているかもしれない。

抵抗を受けて通過できない……物質の形態を変えることができない、それが肉体ということか……そうか、そういう言い方の方が確かに分かりやすい。

 

「なるほど、さすがヒメミちゃん、なんとなくだけどミサキにも分かった気がする! ……けどさ、その肉体って、逆にあると不便だよね? 何故マスターはそんな世界に戻りたいの? ずっと私たちとココに居ればいいのでは? マスターに通信でしか会えない時間帯は結構寂しいし」

確かに……言われてみれば、リアル世界の方が不便が多い……だが、やはりリアルはリアル、人にとってメタバースは便利で有意義だが、リアルが無くなれば、もう人では無いよな……。

「ミサキそれは……そこがマスターの産まれた世界だからではないでしょうか。私たちだって、ここ以外のより便利な世界があったとしても、この世界を失いたくはないでしょう?」

「うーん、確かにそうかも。このXANAメタバースが無くなったら、いえ、ここに居られなくなったら、悲しいかも」

「あーん、うーん、だめだ、うちにはいっこも分からへんねや。とにかく、今せなあかん事は、今朝から起きてる異常事態の原因を探る事やんな」

「拙者もカエデ殿と同じでござる。理解は出来ぬが、やるべき事は理解できたと思うでござる。ただ、そのために今何をしたらいいのかまでは分からぬでござる、ヒメミ殿のご指導を受けたいでござる」

「いいわ、貴方たちは、それで」

「ねっ、ねっ、マスター」

右腕を引っ張りながら、マミが小声で言うので、俺は聞き取ろうと耳を近づけた。

「私、マスターの世界知ってるよ」

えっ――! 知ってる!? どういうことだ……。

「マミね、あっち居たことあるから。でもココのが好き。あっち行くと、マミ動けなくなるから」

動けなくなる? まあ確かに肉体がないから、向こうに行っても動けないな。

せいぜい、モニターからモニター間を移動、いやカメラで見たのか?

監視カメラとかかなあ?

その会話は他の者たちには聞き取れなかった。

 

(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ)

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