目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

13話「ペットとボート」


新しく設立された地下迷宮オブロは、ビーチからすぐ見える無人島に設置されている。

この島自体が新しく作られたワールドだ。

必要な装備を購入するため海岸通りのショップに立ち寄った。

ヤキスギさんにいただいたJXBカードでパッションソルトさんのオムライス、リアムンさんのアバター、ヤキスギさんのおやきを購入した。

AI秘書たちの武器防具は、既にアイテムを用意してあるが、念のため確認しておくことにした。

アイテムバッグを意識するだけでパネルが表示される。

とてもリアルで持ち運べる量ではないが、それがメタバースのいいところだ。

アイテムの中に点滅しているものが二つある。

あっ――! そうだ、ペットのリビールだ。

リビールとは、購入した時点では中身が開示されないNFTが公開されることだ。

クリックを意識すると、ポン、ポンと飛び出してきた。

一匹目はかなりでかい犬だ。

「あっ、マスター、そのセントバーナード、騎乗スキルあります!」

ヒメミがいち早くステータスを読み取ったようだ。

少し遅れて俺も『ステータス』を意識してポップアップされたデータを確認した。

大型犬、セントバーナードタイプ。

救助スキルを持つ、戦闘時は使用できない。

スキル使用後、全ステータスを全回復する。

騎乗可能な最大重量四十五キロ。

おっ、これ凄いじゃん――!

いいペット引いたな、大当たりだ!

「マミ、お前体重いくつだ」

「マスター、それは失礼ですよ。マミだって女の子なんですからね」

「いや、ミサキ、とても重要なことなんだ」

「マスター、ステータス見ればわかります」

そのヒメミの声は冷たかった。

「あっ、そういえばそうだ! ゴメン」

もっともだ、意識すればAIたちのステータスを見ることはできたんだ。

「うちは四十二キロやで――」

「カエデには聞いてないでしょ!」

「ちなみに、ミサキちゃんは……やばー! 乗られへんやん」

「こっ、こら、黙れカエデ!」

「えっ?」

ミサキって俺好みの細身体型だけど、結構重い設定だったか?

「マスター、見ちゃダメ、見たらお仕置きしますよ!」

「あっ――、分かったよ、見ない、見ない」

AIの体重なんて、ただの数字だけじゃないか……そんなとこまでリアルな女性の反応にしなくてもいいのになあ。

「三十五キロだそうです」

「えっ?」

「あっ私じゃなくて、マミのですよ」

マミはヒメミの背中で小声で言ったようだ。

ミサキたちがうるさくて聞こえてなかったらしい。

ヒメミが俺の傍まできて、耳元で伝えた。

「おっ、それならマミは、センちゃんに乗せよう!」

これは凄くいいタイミングでリビールされたな。

「そうですね、マスター。それなら私も戦闘力全開で戦えますし、マミが後衛サポートに回れますね。しかしマスター、センちゃんとかネーミングセンスゼロですか?」

「えっ……」

ステータスを見ると、既に自動的にセントバーナードの名称がIDの数字でなく、『センちゃん』に変わっていた。

ありゃ、思ったことを口にしたら、実行されちゃうんだな。

まあいいか――。

「何言うたって、忠臣くんどすさかいね。まあマスターの名づけセンスは、期待しいひん方がええかも。――そやけどうちの名前『カエデ』は気に入ってますで、マスター」

「それだったら、私もミサキって名前は気に入ってますよ」

「そっ、それは良かった……」

俺の名づけセンス、そんなにディスらなくてもいいじゃん。

これもイブの侵食なんだろうか……今日はやけにディスられる気がするぞ。

まあ、そこに愛はあるみたいだけどな……。

「昔の女やったりして?」

「それは聞き捨てなりませんね――。そうなんですかマスター?」

「まっ、まっ、まさか、そっ、そんな……なっ、ことはないよ」

――げっ、カエデ鋭すぎる。

「今、マスター、口ごもっとったで」

――カエデー! またそこへ火をつけるな、――火を!

「えーっ、マスターそうなんですか……」

ミサキがしゅんとなる。

「そうなのでしょうかマスター。それは私もぜひお聞きしたいですね」

マミをセンちゃんに乗せ終わったヒメミがやってきた。

ヒメミまで反応してきたじゃん……。

くぅー話をそらさないと――。

「あれ――? そう言えばもう一匹のペットはどこだあ?」

二体セットで購入して、両方ともアイテムボックスをクリックした(意識上だけど)から出ているはず――。

「マスター上ですよ、上」

ミサキが頭上を指差すので見上げた。

「えっ、鳥?」

「雀はんどすなぁ」

「雀かあ……さすがに騎乗は無理だよなあ……」

ステータスを見ると、移動速度はかなり速そうだ。

スケボーの通常速度の二倍はありそうな数値だ。

……だが、地下迷宮では役に立たないか。

――よし、話はそらせたぞ。

「マスター、通信に使えますよ」

ヒメミが指摘する。

スキルを確認すると、伝書鳩機能とある。

更に詳細を確認しようとすると、ポップアップが別に開いた。

「なるほど、録音データ、スクショデータ、映像データをフレンド登録リストに送信可能なのか……うん、通信に使えるな」

 

そう言えば、忘れていたが、忠臣君は足が早いので先に行かせていたが……どこだろう。

とそこへ、桟橋の方からダッシュしてきて、俺の前で跪いた。

「殿、お待ちしておりました」

「うん、ご苦労」

「少し問題がございます」

「えっ、問題?」

「はい。ボートの販売機が停止しているようです」

「えっ……まじ……」

地下迷宮のある孤島はすぐそこに見えるが、たしかボートでしか行けない設定のはず。

ボートは桟橋の自販機で、購入できるNFTになっているはずだ。

「なんでだろ、地下迷宮オブロがまだオープン日前だからかなあ……これは困ったぞ。でもゆっきーさんたちはどうやって……。あっ、そうか、ゆっきーさんは元々船持ってたよな。釣りが趣味で、XANAで釣り船もやってたよなあ……」

「マスター、既にご存じかと思いますが、どこの通りも、公式の自販機は全て停止していましたね」

さすがヒメミよく見てる、俺なんか何も考えていなかったというか、意識してなかった。

「そっ、そう言えば、そうだよね……うーんと、ユーザーのショップは開いてたけどね」

「はい、自販機だけではなく、公式のショップは全て停止していましたね。良くお気づきですねマスター、さすがです」

「あっ、いや……うん」

――ってショップも公式は全停止してたのね、今知ったよ!

「ボートがないと、島に渡れませんね。イルカのペットとかだったら良かったですね」

確かにミサキの言うとおりだ、海で騎乗できるペットが出たら良かったんだよなあ。

もっとペット購入しておけば良かったなあ……あれ限定品だからなあ、まだ売られてないよなあ……。

「マスター、リビール前のペット卵NFT売っているユーザーショップ、さっき見かけましたよ」

まじか――!

さすがヒメミ、この娘はほんとに視野が広いというか……凄い……。

「よし、行ってみよう」

ヒメミに案内されたのは、海岸通りに立ち並ぶ個人のショップだ。

ここは、ビーチバレーやフラッグ競技、釣りなどの目的で遊びに来るユーザーが多い。

だから海の家風のショップがたくさん出店しているのだ

「おっ、一つだけある。げっ、十倍だ……たかっ、ってよく見たら、ルドさんのショップじゃん――」

ユニオンメンバーのルドさんのショップだった。

「マスター、それは仕方がありませんよ。スキル付きの限定品で、抽選でしか手に入らない貴重品ですから」

確かにヒメミの言うとおりだ。

通信が使えたらなあ……ルドさんなら、きっとやさしいから、おまけしてもらえるのになあ……。

「あっ、マスター! マスター! ミサキも見つけましたよ。しかもちょっと安い、定価の八倍ぐらい?」

「あっ、ホントや一つだけあるなぁ」

結局二つとも購入した。

購入したペットのボックスの一つを開ける。

「わっ、可愛い――、リスですね」

「リスどすなぁ」

「騎乗はできませんけど、ステルススキルありますね。これは偵察に使えますね」

「いややなあ、それ、くノ一のうちのスキルと被ってるんちゃうん」

「カエデは暗殺もできるから大丈夫だよ」

「それだ。おおきに、ミサキちゃん」

「よし、今度こそ、海渡れるペットこい!」

二つ目を開ける。

「わっ、可愛い――」

「ネズミですね……」

「ネズミ……だな……」

「ネズミ、でござるな」

まじか、乗ったらぺしゃんこじゃん。

「あっ、鍵開けスキル、侵入スキルありますよ。壁に穴開けたりとかできますね。役立ちそうです」

がっかりする俺に、すぐさまポジティブシンキングのヒメミが言った。

「おお、なるほど……」

確かに何かのときに役立ちそうだ。

「私一人なら行けるんやけどな……」

「えっ……? カエデ、それどういうこと?」

「あれ、ミサキちゃん、知らなかったっけ? うちのくノ一スキルに、忍法水上歩行あるんや」

「カエデって水上歩けたの! 凄いじゃん!」

――えっ、そうなの、もっと早く言ってくれよ。

「それマスターが覚えさせたスキルではないですか?」

ヒメミがまた冷静な声でつっこみを入れてきた。

あれ? ――そうだった? 思い出せん……。

「あっ……ああ、そうだよね、そうだ――たぶん……」

ああっ――そうだ! そういえば、忍者デュエルが導入されたときに、カエデをくノ一タイプにしたときか!?

忍法スキルパッチパックのNFT購入したやつに入ってたかも――。

よく見ないで買ったからなあ……。

「殿、御注進でござる――」

「うん、あっ、申してみよ。ごほん――」

どうも突然殿モードになると、言葉が混乱する。

「拙者、先ほど島の沿岸に小舟を確認したでござる」

「えっ、そうなの? 俺には……見えないかな……あっ、なんか向こう岸にあるな」

「あの船まで、カエデ殿に行ってもらっては如何でござろうか?」

「おおっ! それだ――」

ナイスだ忠信君!

「えーっと……」

「カエデの出番だー、いけーカエデ――」

ヒメミが何かを言おうとしたが、威勢のいいミサキの声にかき消された。

俺もミサキの勢いに乗せられて、ほぼ同時に叫んでいた――。

「よし、いっけー、カエデ――!」

「了解どすマスター、とりあえず船まで行ってくる」

カエデは波打ち際まで行くと、両手を合わせた。

忍法を使うときのお約束のポーズだ。

「スキル発動――、水上歩行!」

カエデはすいすいと、滑るように水面を走っていった。

なかなかかっこいいので、みんなが見惚れた――と思ったが、ヒメミは違った。

「あの……マスター」

「なに?」

「他人のボートってレンタル、いえ、勝手に操縦できるのですか?」

――はっ! なわけないじゃん!

「あっ!」

「そうでした!」

「でござる!」

「ごめんヒメミ、恥ずかしながら当たり前のことを見過ごしてたよ!」

「かくなる上は、この腹掻っ捌いて、殿にお詫び申し上げるでござる」

忠信君は、浜辺に座し、懐から手ぬぐいを出し短刀を抜く。

――なんでそんなの用意してんだよ。
柄を石でうち、刃だけを取り出し、手ぬぐいを巻いて掴んだ。

――えっ、なに急に……。

「あっ! まさか切腹――」

おいおいおい、なんでそうなる。

「ちょっと待て、忠信君、行かせたのは俺だから、君悪くないからね」

「殿に恥をかかせるなど、この忠臣、末代迄の恥! 腹を切っても足りぬでござる」

――いや、そこまで忠臣武士設定した覚えないから、ヤメテー、誰か止めて――。

「ヒメミ止めてくれ――!」

「忠臣殿見事なお覚悟です。後のことは私たちに任せてください」

――おい、違うだろそれ! 絶対違うって! なー、誰か!

「――介錯承ります!」

「ミサキ殿、かたじけない。殿のことは頼んだでござる」

「だーかーらー、違うってー」

忠信君は右から肌脱ぎになリ、左手で腹を押すように撫でる。

「ちょ、ちょっと待てー、ちょっと待ったー」

急いで忠信君の腕を掴んだ。

「あっ、お待ちください。ボートがこちらへ向かってきます!」

「えっ?」

海の方を見ると、孤島の岸に停泊していたと思われるボートがこちらに向かってくる。

「なぜかしら? カエデどうやって? あの子、盗賊スキル持ってた?」

「いいえ、忍術にそんなスキルはないです。ですよねマスター?」

いや、知らんがな。

なぜ俺に聞くのヒメミ、君の方が賢いでしょ、俺を持ち上げる必要ないからさ、いちいち同意なんていらないからさぁ。

「そっ、そうだよね、ヒメミ……」

どんどん近づいてくると、手を振っているカエデが見えてきた。

「誰か操縦者がほかにいるようでござる」

さすがに切腹はやめてくれたようだ。

ピン――。

音がしたのでコントロールパネルを意識すると『フレンドがログインしました』と案内がでる。

フレンドリストを確認すると、デフォルト色になっていたゆっきーさんのネームが白く浮き出ていた。

あっ――ゆっきーさんが操縦しているのか?!

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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