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Episode 4「Dawn」1

黎明

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Chapter 1
Episode 4
「黎明」
by (吉野玄冬:著)
「──ごめんなさい!」 「は?」  片手を突きつける慎吾に対し、有紗が取ったのは思わぬ行動だった。  突如、頭を下げたのだ。その雰囲気も先程までとは異なっているように思えたので、困惑するしかない。 「私はあなたを決して殺したりしない。むしろ守りたくて接触した。本当は私達は新人類の誕生を推進している側なの。殺そうとしておいて何を、と思うのはもっともだけど……信じて欲しい」  有紗は真摯な瞳で見つめてきた。  嘘を言っているようには見えなかったが、そう易々と信じるわけにもいかない。  しかし、思い出してみれば、有紗は自分がどちらの勢力に与しているかも口にしていなかった。  それに、彼女が同じ新人類としての能力を持っているなら、確かに反対する側よりも推進する側の方が筋は通っている。 「じゃあ、どうしてこんなことを……」 「あなたや私を望まない勢力がいるのは事実なの。今はそんな様子はないのだけど、いずれ本気で殺しに来ることがあるかもしれないわ。だから、あなたには一刻も早く自分の能力に気づいて欲しかった。たとえ過激な手段を使っても……」  その言葉からは有紗も焦っていたことが感じられた。  実際、こうして自分で能力を使用してみなければ、なかなか信じられなかったかもしれない。  慎吾は突きつけていた手をゆっくりと下ろした。けれど、警戒は保ったまま問いかける。 「……それで、俺はどうすればいいんだ?」  有紗は少しホッとした様子で答える。 「私達に協力して欲しい。あなたが必要なの」 「でも、あんたがいるじゃないか。そこに俺が増えたところで……」…

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Chapter 1
Episode 3
「新人類」
by (吉野玄冬:著)
「……っ」  慎吾は不快感から目を覚ます。  視界には剥き出しのコンクリートが広がっていた。それは天井で、壁も同様の部屋だ。隅には空き缶や鉄パイプが転がっていた。  遅れて、自分の状態の異様さに気づく。 「なっ、なんだこれ!?」  台の上に寝かされており、拘束具で磔にされていた。逃れようとしてもガチャガチャと音が鳴るだけで、外れる気配はない。  不安で満たされていると、何者かが扉を開けて部屋の中に入ってきた。 「お目覚めね、日浅慎吾」  女だ。艶やかな長い黒髪に整った顔立ち。スラリとした肢体には顔以外の肌を覆い隠すような漆黒のスーツを纏っていた。 「だ、誰だお前っ!? 何の目的でこんなことを……!」 「まず、私の名前は夜来有紗《やらい ありさ》」  見たことのない顔に聞いたことのない名前。そんな相手に自分が捕まえられる理由の見当が付かなかった。  それを感じ取ったのか、有紗はクスリと笑みを浮かべて告げる。 「こう名乗った方が分かりやすいかしら──noname、と」 「なっ……!?」  慎吾は驚きから言葉を失う。  彼にとっては意識を失う前に『XANA』内の『SAMURAI』で戦った相手だが、その時とは雰囲気が似ても似つかない。 「アバターと言っても、喋り方や声でも立派な情報になるもの。念入りに偽装をさせてもらったわ。実際、あなたの実名や所在地を割り出すのは容易かったのだから」…
Episode 2「NONAME」1

黎明

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Chapter 1
Episode 2
「Noname」
by (吉野玄冬:著)
 翌日は休みだったので、慎吾は普段よりも遅い時間に起床し、ゆったりと朝食を食べていた。  その時、携帯に通知が入った。ユリからの着信だ。『XANA』内にいなくても保有するパートナーとこうしてやり取りは出来る。 『マスターに来客です。いかがいたしましょうか?』 「名前と用件は?」 『アバター名はnoname、用件は「SAMURAI」での勝負を希望しています』  慎吾はふざけた名前だと思いながらも断る理由はなかった。  こういうことは時折ある。最近は強者として有名なので猶更だ。 「分かった、すぐ行くと伝えてくれ」 『かしこまりました』  慎吾は食事の片付けも後回しにして、メタバース用のチェアに座ってHMDを装着した。 『XANA』を起動すると、瞬く間に暗闇が溢れんばかりの色彩で満たされた。  それは次第に見覚えのある光景を形作っていく。慎吾の保有する部屋だ。  そこにはユリともう一人、別のアバターが立っていた。  人型ではあるが、とても人には見えない。メタリックな姿をしており、目や口も人間を模した物でしかなく、まるでロボットのようだ。 「待たせたな」 「……問題ない」  nonameは重々しく呟いた。雰囲気から察するに男性だろう。 「それじゃ早速勝負と行こうか。エリアはどこでもいいか?」…
Episode 1「XANA」1

黎明

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Chapter 1
Episode 1
「XANA」
by (吉野玄冬:著)
日浅慎吾《ひあさ しんご》は仕事中だった。  最低限の家具やインテリアを揃えたようなシンプルな部屋。  慎吾の眼前には宙で複数のウインドウが表示されており、手元に浮く半透明のキーボードを用いて、一つの文書を作成していた。  そんな彼の傍で控えているメイド姿の女性が、何らかの作業をしていた様子など見せずに言う。 「マスター、ご依頼の資料の準備が出来ました」 「ありがとう」  慎吾は新たに表示されたウインドウ内の文章に目を通すと、指を動かすことで必要な部分をコピーして作成している文書にペーストしていく。  仕事の進行は順調だ。これなら定時までに終えることが出来るだろう。  慎吾の視界では当たり前のように両手が動いている。無論、それを動かしているのは彼の意思であり、そこには何らの違和感もなく、馴染んでいる。  ──けれど、これは現実世界での光景ではない。  慎吾には今動かしている身体とは別に、確かな身体感覚があった。専用のチェアに深く腰掛けた、彼の本当の身体の感覚が。  仮想世界《メタバース》『XANA《ザナ》』。それこそが慎吾の眼前に広がっている世界の名称だった。 『XANA』は現在主流となっているメタバースであり、今彼が動かしているのは分身《アバター》だ。仕事用なので、頭上には本名が表示されている。  慎吾の現実の身体はヘッドマウントディスプレイ《HMD》を装着しており、それが脳波を読み取る機能を備えているので、念じることでアバターを操作できている。  現代においてメタバース内で仕事をするのは一般的だ。昔は自宅で現実の身体で仕事をすることをテレワークと呼んだが、今はそれよりも進んだ形となっている。  デスクワークと呼ばれるPCを用いる仕事であれば、メタバース内で何の問題もなく行うことが可能で、むしろ物理的な空間に縛られる必要がないのが利点となっていた。  こちらには自分をサポートしてくれる存在も用意することが出来た。  慎吾の傍で控えている女性の姿をしたアバターは、現実の人間が操作しているわけではない。…
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