「マスター、ヒメミちゃんが――!」
決断に迷っていた俺に、マミが叫ぶ。
ヒメミがガーゴイルの右足に盾を掴まれて、三十センチほど持ち上げられていた。
マナがあれば、盾スキルのノックバックで容易に防ぐことができたはずだ……。
「マミ、ミサキにマナポーション! ミサキ、すまないがもう一度一斉射頼む」
「えっ、マスターそれはダメ!」
ヒメミが叫ぶ!
「早くしろマミ、ミサキは俺が守る!」
マミは慌ててミサキにマナポーションを飲ませる。
「リセット、ウォータージェネシス」
ミサキのいる位置にウォータージェネシスをセットし直す。
「撃ちます、マスター!」
「――だめミサキ、マスター!」
「俺を信じろ!」
ビュッ!
既に二メートルほどヒメミを持ち上げていたガーゴイルの背中に、氷結の矢が突き刺さる。
――グゲェー!
ガシャン。
ガーゴイルはヒメミを落とし、前方によろけた。
ガーゴイルのHPは三十パーセント削られ残り二十パーセントになる。
すぐにこちらにきびすを返し、翼をばたつかせながら駆けだしてきた。
「マミ、離れろ!」
マミを三時方向に突き飛ばし、ミサキの前に立ちはだかる。
「マスター!」
ヒメミの落下ダメージは少なかったようで、すぐ立ち上がりガーゴイルの後を追ってくる。
「ヒメミ、右へ跳べ――!」
「はい?」
俺の意図をすぐには理解できない。
「いけ――デビモン!」
アバターの右手に繋がれたデビルズデーモンの首を掴み、突き出した。
「グェ、なにしてくれんじゃ!」
意図を察したヒメミが、横っ飛びで伏せる。
ガーゴイルの鉤爪が到達する直前だった。
――ズキューン! ズキューン!
閃光が二度放たれた。
ガーゴイルは、後ろに反り返る。
「よっしゃー!」
だが、ガーゴイルは僅かにHPを残していた。
微かに数ミリの赤いバーが残っている。
「やばっ、ギリ足りない! もう一発撃てよ、デビモン――!」
「だから一日三発以上撃ったら溶けるっちゅーただろうが、それにデビモンじゃない、デビルズデーモン様じゃい!」
「マスター、来ます!」
マミが震える声で言う。
「大丈夫だマミ、俺が受け止める。ミサキ、もう一度撃てるか?」
分かってはいたが、返事はない。
「マスター、ミサキちゃんはスタミナ切れで意識がありません」
後ろを振り返れない俺に、マミが報告した。
「うん、だよな」
ガシャ――!
ガーゴイルの右足の爪が襲ってきたが、完全に無効化されダメージはない。
「パーフェクトディフェンス――!」
最後のマナでもう一度、完全自己防御スキルを発動する。
本当にこれが最後の策だ。
立ち上がったヒメミがガーゴイルの背後に突撃してくる。
だがガーゴイルの敵視は、俺からそれることはない。
ガシャ――!
今度はガーゴイルの左足の爪が襲ってきたが、完全に無効化されダメージはない。
「おりゃー!」
ヒメミが突撃の勢いのままに切りかかる。
ガン!
ガシャ――!
ヒメミのガーゴイルへの一撃とほぼ同時だった。
ガーゴイルの右足の爪が、俺に突き刺さる。
「うぐっ」
俺は四時方向に吹っ飛ばされ、右肩から床に落ちて、そのまま五メートル以上滑る。
「マスター! こいつめー!」
ガン!
ギャガガガガ――!
それはガーゴイルの断末魔だった。
ヒメミの二撃目でガーゴイルのHPバーが消え、床に沈んだ。
「マスター!」
ヒメミが走り寄ってくるが、右手を挙げて合図する。
「大丈夫だ、ヒメミ」
「また無茶をして! もう無茶は止めてくださいとあれほど言ったのに……」
「うっ、くっ、苦しいよヒメミ」
俺は、立ち上がろうとして片膝を立てた。
膝立ちのままの俺を、ヒメミがまるで懲らしめるかのように、きつく抱きしめてきた。
「我慢して下さい、これぐらい! お仕置きですからね」
いや、俺、今のでHPとスタミナ半分以上もってかれてるんですけど……。
ヒメミの全力ハグで、更に削られてるんですけど……。
マミも俺の背中に張り付いてきた。
「マスター死んじゃうかと思った……」
(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)