「あのマスター、違うといえば、確かにそうなのです。十時間ほど前から、今までにないことが起きているのは確かです」
「――今までないこと、それはなんだ?」
「はい、マスターへの通信ができなくなっています」
そうか、それでヒメミはここまで歩いて報告に……。
コントロールパネル自体ないから、通信メニューを開きたくても出て……。
――プン。
えっ、なんだ、いきなり通話メニューが右上の視界にポップアップしたぞ。
右手をそのメニューに伸ばし、AI秘書パネルを開こうとする……
――プン。
まただ、パネルが開いた。
これもしかして、考えたことが…実行されてる?
一体どういうことだ……まさか俺の思考をよみとってるのか?
いや、そもそも今俺VRゴーグルつけてないよな……いや、もしかして――!
そこであることを思い出した。
そうだ、一週間ほど前の事だ。
XANAメタバースがスタートして一年後、秘書たちのAIマザーが第二世代と進化して、AI達が疑似感情を持つようになり、よりリアルな態度をとるようになった。
そして更に三年目が過ぎようとするころ、巨大なゲームファイ企業がXANAに参入することになった。
そして一週間ほど前、最新の専用AVゴーグルの試用版というものが送られてきた。
XANA立ち上げ時から参加しているαパスというNFTを持つ初期勢に試してもらいたいと、突然送られてきたものだ。
そういえば、それをつけてから、なぜかAI秘書たちの反応が良くなった気がしていた。
そんな思考を始めながら、俺は改めてAI秘書パネルを見た。
第一秘書のヒメミ、第二秘書のミサキ、第三秘書のカエデ、そして三週間ほど前に入手した第三世AI搭載の第四秘書のマミが表示されている。
しかし通信パネルがどれもOFFになっている。
なるほど、確かに通信機能が使えなくなっているようだ。
「それと、マスター、よろしいでしょうか?」
考え事をしている俺に、ヒメミが遮るのをためらうようかのに言った。
これも、人の感情を読み取ってのことだと思うと恐ろしいぐらいだ。
「それと?何か他にもあるのか?」
「はい、今日のデュエルですが、AI戦リーグ以外参加者がいないようで、どこも行われていないようなのです」
「AI以外のリーグ……それは、ログインしている人が殆どいないってことか……」
「はい、おそらくそうだと思います」
「あっ、そうですマスター、さっきミサキもアトムにデュエルとニワトリファイターのデュエルリーグみてきたんですけれどぉ、AI達しか見かけませんでしたよ」
「……いない」
どういうことだ?ログインしている者が殆どい居ない……。
いや、そもそも俺だってログインしているのか?
これまさか夢とかじゃないよな……どんなにリアルな夢でも、夢という存在を認識していれば、夢を見ているという感覚は沸くはず……だよな。
そうすると、もしかしてライトノベルでよくある、あの転生とかいうやつか?
それだと……俺死んたってこただよな?
もしかして、寝ているうちに死んでしまって、転生したとかかよ――。
ここはXANAメタバースてなく、それと似た異世界ってことか?
いやいやいやいやいやい……そんなのライトノベルの世界ぐらいだろ……
だいたい俺は、ラノベ主人公みたいにあっさりそんなもの受け入れられないぞ――。
そうだ、フレンド通信……
――プン。
やはりだ、思った瞬間に必要なメニューが立ち上がり、手を伸ばさなくても反応する。
あれ、フレンド登録は百人近くあったはずだが、三十名ほどしかリストがない。
どういうことだ……
その中でオンラインマークが付いているのは十人ほどだ。
そこで俺はある名前を見つけてちょっとほっとする。
ヤキスギさんだ。
同期のころから参加しているXANAリアンで、メタバース立ち上げ前から、コミにティーにいつもいるお方だ。
メタバースが稼働してからでも、XANAに住んでいると言われる伝説があるほどお方だ。
彼がいるだけでなんだか少し安心した気分になる。
だが、問題は通信が使えない、ということは、マップ表示も……やはりだけだ、マップはでるが居場所はでない。
彼が自分のランドにいればいいのだが……。
世話好きの彼だ、果たしておとなしく、自分のランドにいるかどうかが問題だ。
だが、今は、とりあえず、現状確認には、他のザナリアンに会いに行くのが正しい選択肢だと思える。
(JIRAIYA:著/オーブ:編)