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目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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「マスター!」

ヒメミが俺のアバターを引っ張って倒してくれたが、遅かった。

幻惑で同士討ちを始めた赤ペンギンたちは、こちらに向けても撃ってきたのだ。

俺の額に穴が開いてしまった。

「ダメでしょマスター、すぐ伏せないと!」

「すっ、すまん、つい確認したくて……」

これがリアルなら死んでいるが、全然痛くもかゆくもないし、血も出てはいない。

「黒ペンギンの弾創よりも小さいな……」

「それでも三パーセントのデータ損傷を受けてます! もっと危機感持ってください!」

「すっ、すまない……」

「今度からはすぐ退避! いいですねマスター!」

ヒメミが今までにない剣幕だったので、ちょっとたじろぐ。

「あっ、ああ、分かったヒメミ」

まるで心配をかけた子供を母親が叱っているような物言いだ。

俺にも母親がいたら、こんな感じなのかな……。

母がいなかった俺には、じわっと胸が温かくなる。

ヒメミは時に、母のように、恋人のように、妻のように寄り添ってくれる。

自分にとってかけがえのない存在になっていることを改めて実感する。

人でもないAIにそんな感情を持つのはおかしいと否定する……。

しかし、俺の思考は更にそれを否定する。

それが人かAIかなんて、どうでもいいんじゃないのか?

そうさ、自分にとって大切なものなら、それが何だっていいじゃないか。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

とても下を覗ける状態ではなかったが、幻惑された赤ペンギンたちが同士討ちしているのが想像できる。

二分ほどそれが続くと静かになった。

「あれ、効果が切れたのかな……」

「ですね、全滅してくれてたらいいんですけれど」

――ガタン、ガタン、ガタン。

――ガタン、ガタン、ガタン。

「なんだ?」

「私が覗いてみますから、マスターはじっとしていてください」

「うん……」

ヒメミは階段の踊り場から、少しだけ顔を出して覗く。

だが五秒ほどで、すぐ顔を引っ込める。

バンバンバン、バンバンバン――。

撃ってきた時には、既にヒメミは射線外に出ていた。

「両足でジャンプしながら上ってきます」

「そうか、あの短足で上るにはジャンプするしかないな」

「数は半分ぐらいに減っていると思います」

およそ五十の半分ということは、二十五体程度か……。

結構効果があったな……しかし、まだ多い。

ここまで上ってこられたら、どう考えてもこちらの分が悪い。

「よし、もう一度幻惑を使おう」

「マスター、幻惑は相手を視界に捉えれば発動できますか?」

「ああ、射線が通れば使える。上ってくるやつは階段の影になって無理だが、下にいるやつには使える」

「マスター、私と盾の間に入ってください」

「えっ? ヒメミと盾の間……」

ヒメミが俺の背中に回って、ハグをした形になる。

「ヒメミちゃん、そんな場合じゃ……」

ミサキは何か勘違いしたようだ。

俺も一瞬勘違いしたが、すぐに意図を理解した。

「盾に空いた穴から、見えますよね?」

なるほど、これで盾越しにスキルを使うということか……。

「うん、見える。やれそうだ」

「無傷とはいかないかもですが、これで少しはマシです」

「よし、やってみよう」

ヒメミの右手に抱えられながらの移動は歩きづらい。

それを見かねたヒメミは、俺を右手一本で持ち上げて、踊り場に移動する。

塀際よりも外付けの踊り場の方がよく観察できるからだ。

リアル世界では不思議な光景だが、ここではそうでもない。

赤ペンギンたちは一列縦隊で、ジャンプしながら階段を上ってくる。

先頭は、そろそろ二階に到達する。

階段下で順番待ちしているペンギンに目標を定めた。

階段は折り返し状になっているので射線が通らない。

「幻惑――よし、待避!」

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

盾で防ぐも、数発が俺とヒメミの足に当たった。

俺の足には二つの穴が空いていた。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

再び赤ペンギンたちの同士討ちが始まったようだ。

――ガタン、ガタン、ガタン。

しかし、階段を上っていた赤ペンギンたちは、幻惑を受けていないので上がってくる。

それでも幻惑にかかった赤ペンギンの攻撃が当たり、階段にいる赤ペンギンも減るはずだ。

この戦術を二回ほど繰り返し、確認できる赤ペンギンは、階段を上る十体前後になった。

正確な数は数えられない。

だが、当然こちらも被害を受けている。

俺は十数パーセント、ヒメミは二十八パーセントを超えるデータ損傷になっていた。

特にヒメミの足は、穴だらけで心配になる。

「あとは屋上で迎え撃つ、後退しよう」

もう先頭の赤ペンギンは三階の入り口を越えていて、既に屋上に迫っている。

ヒメミを先頭に一列縦隊になる。

屋上で幻惑をかけるわけにはいかない。

敵味方かまわず撃ってくるので、こちらも被弾する可能性があるからだ。

「忠臣君はヒメミの左に回って攻撃、ヒメミが撃たれないうちになんとか倒してくれ」

「御意、拙者の命に代えてでも」

「ミサキ、ヒメミの右に回って、もし二体目がすぐに来たら仕留めてくれ」

「はいマスター」

――ガタン、ガタン、ガタン。

沈黙と緊張が走る。

先頭の赤ペンギンが踊り場に飛び出してきた。

すぐにこちらに向きを変えて、ヒメミめがけて、口を開く。

忠臣君が俊歩で、ヒメミの左側に飛び出す。

バンバンバン――。

三発ぐらい撃たれたが、忠臣君が居合いで斬り捨てる。

――ガタン。

バンバンバン、バンバンバン――。

すぐその後ろにいた二体目の赤ペンギンは、既に口を開いていて、射撃してきた。

忠臣君は俊歩で回避する。

ヒメミは後列をかばい、その身で全てを受け止める。

――ビュ。

ミサキが右側に出て、ダブルショットで射る。

――ガタン。

バンバンバン、バンバンバン――。

三体目のペンギンは射撃体勢に入ったまま上がってきた。

前のペンギンを見て、学習しているようだ。

上がったときには、こちらに顔を向け口を開いていた。

即、射撃してくる。

ミサキは、ヒメミの後ろに入る前に射撃を受ける。

しかし、ヒメミが盾を少し右に寄せてカバーした。

当たったのは一発だけだ。

「ありがとうヒメミちゃん」

忠臣君もミサキが危ないとみて、我が身を省みず射線の中に突っ込む。

見事に斬り捨てるが、数発食らって、胴体に穴が空いた。

――ガタン、バンバンバン……。

すぐまた四体目が上がってきた。

「魅了―――」

何もできない自分が歯がゆくなり、ミサキの左に一歩横移動し、魅了を発動。

しかし、レジストされた。

耐性があるのか、それとも確率的な問題で発動しなかったのか……。

バンバンバン、バンバンバン――。

俺がスキルを使ったために、ミサキと忠臣君の攻撃タイミングが遅れる。

四体目は、なんの抵抗も受けず射撃してきた。

すぐ五体目も上がってくる。

赤ペンギンの四体目と五体目の二体が、同時に屋上に出てしまった。

「マスターは動かないで!」

攻撃を一身に受けるヒメミに叱られる。

「すまん……」

――ガタン、バンバンバン……。

六体目も上ってきた。

まずいぞ――!

まだいるのか……。

「居合い!」

「スリープ!」

四体目に忠臣君が斬りかかったその時に、マミのスリープが発動した。

「あっ!」

忠臣君は四体目の赤ペンギンを屠ったが、マミのスリープを受けてしまって固まる。

――ビュ。

棒立ちになった忠臣君が、五体目の赤ペンギンに撃たれそうになった。

しかし、寸前でミサキの矢がヒットし五体目が塵になる。

さらに、六体目が棒立ちの忠臣君を撃つ。

――バンバンバン、バンバンバン。

「ノックバック!」

ヒメミがそれを救うために、突撃してノックバックを発動する。

忠臣君は、ヒメミの身を挺した突撃に救われ、三発ぐらい受けただけでダメージは少ない。

その分ヒメミのダメージが蓄積している。

だが、確認している暇などない。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

マミが必死に謝る。

「大丈夫だマミ、これは俺の責任だ。心配するな!」

そう、マミのせいじゃない、ローテーションのタイミングを崩してしまった俺のせいだ。

――ビュ。

ヒメミのノックバックを受けた六体目は、あとから上がってきた七体目とぶつかる。

そのチャンスを逃さず、動きが止まった六体目をミサキが射る。

六体目が塵となって消える。

七体目が、すぐまた後ろから射撃してくる

――バンバンバン、バンバンバン。

――ガタン。

八体目が上がってきた。

そうだ、もう一つ攻撃方法があったじゃないか!

「デビモン頼む、レーザーを撃ってくれ」

「しゃーないな、撃ちたい方向に向けろ」

予想外にデビモンが、すぐに反応したので逆に驚いた。

俺は少し右に飛び、デビモンの頭を掴んで八体目の赤ペンギンに向ける。

「ヒメミ、後ろに下がれ!」

ヒメミは数歩後ろに下がるが、動きが鈍い。

俺は角度をつけてヒメミに当たらないようにするため、更に右に移動する。

「撃て、デビモン!」

ズキューン――。

八体目の赤ペンギンを貫通した。

「よくやったデビモン、ありがとう」

「ふん」

デビモンは、ふてぶてしい態度をとったが気にはならない。

「各々方、かたじけのうござる」

忠臣君のスリープが解けたようだ。

すぐ忠臣君は階段下を覗く。

「マスター、もういないでござる、我らの勝ちでござる」

「ふうー、助かった……」

そのひとことで、一気に緊張が解けて座り込む。

「みんなありがとう、よくやってくれた。それと……すまなかった、俺のせいで」

「いえ、マスターのせいではありません。すみません、きつい口調になってしまい」

ヒメミが振り返って謝罪してきた。

「いや、全然問題ない……ん?」

「ゴメンね、忠臣君」

「気にすることはないでござる、マミ殿」

ヒメミの動きが、おかしいことに気づく。

ミサキも忠臣君も座り込んだのに、ヒメミは下半身を動かしていない。

損傷率が四十三パーセントになっている。

「すみませんマスター、足が動かなくなりました」

両足とも穴だらけだった。

あと数発攻撃を受けたら……俺は全身に悪寒が走った。

――パキュン! パシ!

――パキュン! パシ!

銃声らしきものが響き、ヒメミの盾を貫き、胸に穴を空けた。

二発目は、座っているミサキの腹部を貫いた。

「なんだ、何が起きた!」

「十時方向の向かいの建物の屋上に黒ペンギン二体確認! 反撃します」

ミサキが敵を発見し、弓を構える。

「全員九時方向の塀際退避でござる――」

マミがセンちゃんと九時方向の壁に走る。

「ダブルショット!」

ビュ――。

ミサキの放った矢は見事に命中し、一体が塵となる。

もう一体が二発目を放とうと口を開けたのが見える。

「ごめんなさいマスター、お別れです」

「――ダメだヒメミ!」

「ダメです! マスターも損傷率三十五パーセントなんですから――」

ヒメミの前に立ちはだかろうとしたが、ヒメミの腕に掴まれて阻止された。

「ふざけるなヒメミ、お前と別れるものか!」

――パキュン! パシ!

「――!」

――ドタン。

「あっ――!」

倒れたのはヒメミではなく、ミサキだった。

とっさにヒメミの九時方向に、ミサキが走りこんできた。

「ありがとうミサキ、あいつは俺が仕留める!」

デビモンを向いの建物の黒ペンギンに向ける。

黒ペンギンの射撃間隔は赤ペンギンよりも長い。

慎重に方角を合わせる。

「撃て、デビモン!」

「これで撃ち止めじゃからな」

ズキューン!

閃光が放たれ、向いのビルまで赤い光が伸びる。

通りを挟んだ、二十メートルほど先の屋上の黒ペンギンが消え去った。

「よっしゃ!」

「ミサキ! なんであなたが――マスター、ミサキが……」

「えっ?」

仰向けに横たわるミサキの元へ急ぐ。

損傷率五十一パーセント――!

「おい嘘だろ!」

「さっき撃たれた時、もう損傷率四十六パーセント超えていたので……ごめんなさいマスター」

「バカヤロー、なんで……」

「だって、……ヒメミちゃんがいないと、マスターはだめだから」

「そんな……俺はお前だって大切なんだ! お前だって失いたくないんだ!」

「ありがとうマスター、今までマスターといられて、ほんとに楽しかったな……」

ミサキの身体が、末端から粉々になって溶けだした。

「ダメだ! ダメだ! ダメだあ! ああ、なんでだミサキ!」

「マスター、最後にムギューしてください」

ミサキを抱き起こし、穴だらけの身体を強く抱きしめる。

「すまない、ミサキ! お前の損傷率に気づいていなかった」

そうだ、前衛に立つヒメミばかり気にしていた。

盾を持たないミサキの損傷率が高いのは当然じゃないか!

何を見ていたんだ、おれは……。

「いいんですよマスター、それより褒めてください。私、頑張った……ですよね」

手足がほとんど塵となってしまった。

「ああ……ああ、お前は大活躍だったよ……」

「ヒメミちゃん、妬かないでね、私マスターに抱っこされて、今、凄い幸せだよ」

「ミサキ……ミサキ……バカよ、私がその役だったのに、ずるいわ……」

ヒメミの目からは、ボタボタと大粒の涙が、したたり落ちた。

「えへへへ、カエデにもよろし……」

言い終わらないうちに、ミサキの顔は空中に溶け、やがて全身が見えなくなった。

(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ)

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