声のする方を見た。
俺の手、といってもアバターの手だが、そこに縫い付けられているおじさんと目が合った。
リアムアバターは、XANAメタバース内では知る人ぞ知る大人気アバターだ。
本体は可愛い女の子のアバターだが、引きずるシリーズというのがあり、右手に何かを掴んでいる。
俺が今、身に着けているアバターは、こんな設定がされている――。
『元ОLのマキ。飲み会で酒が入ると、新人のОLたちに、すぐに説教を始める。セクハラするキモ親父たちを狩り、その見せしめとして、おじさんをいつも一体引きずり回している』
いつもは、移動の時に「超ー邪魔くさいなあ」と思っていたのだが、そのおじさんが救ってくれた。
いや、たまたまなのだが。
「おじさん、喋れたのか――」
おじさんは、身動きせず知らんぷりをする。
「おいおい、今確実に目が合ったよね――」
「――デュエル!」
「――デュエル!」
突然、ペンギンたちの後方で、その声は聞こえた。
そこからおじさんの存在は忘れてしまった。
ウルトラマンのデュエルカードとアトムのデュエルカードがペンギンたちの後方に出現する。
助けに来てくれたのだ!
ペンギンたちの列が削られていくと、その正体が分かった。
ヤキスギさんとそのAIだ。
さらに、俺たちの前にニワトリアバターが入ってきた。
「――デュエル!」
ニワトリ大好き、闘鶏師で養鶏場経営のリブさんだ。
ニワトリファイターのデュエルカードを出して、ペンギンたちを前列から削っていく。
前後から削られたペンギンたちは、五分ほどで全滅した。
「大丈夫ですか、よいたろうさん?」
ヤキスギさんも駆け寄ってくる。
「危ないところでしたね、あっ、もう少し早ければ……」
マミの欠けた右足を見て残念そうに言った。
「いや、二人ともありがとう。ほんとどうなるかと思った。助かったよ」
心底ほっとした。
デュエルが終了しても、マミの欠けた足が戻る様子はない。
そもそもデュエルゲームでアバターが欠損することはないのだから、通常のデュエルが発生しているわけではないようだ。
「よいたろうさん、他の秘書たちはどうしました?」
ヤキスギさんが尋ねる。
「ああ、ヤキスギさんを探しに、ヤキスギさんのランドに行かせたんですよ」
「そうでしたか、呼びに行かせましょうか? まあ、やつらマスターを狙ってくるんで、そのままの方がAIたちには安全なんですが……その子の状態じゃ助けが必要ですよね」
「うん、申し訳ないけど、頼みます」
ヤキスギさんは、自分のAI秘書にスケボーを渡して、自分のランドに探しに行くように命じた。
「詳しい話は、ギルドハウスでしますね。他のメンバーもいますから、行きましょう」
俺が色々と聞きたそうなのを察して、ヤキスギさんが言った。
「あのペンギンたちは九十分ごとに襲ってくるんです」
リブさんが、マミを抱えて跪いていた俺に手を差し出して立たせてくれた。
ギルドユニオンの建物前では三体のAIたちが立っていた。
ペンギンたちの襲来に備えているのだろう。
(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ)