「ぺんちょたん、なんで頭ついてんの?」
「はっ? リアムンちゃん、頭なかったら生きてないぺん――!」
「だってさぁ、XANAに頭おいてきたんだよねー」
「だから――」
そんないつもの会話から始まったのは、ギルドユニオンのオンライン・ゼーム会議だ。
右サイドに参加メンバーが表示されている。
サブギルマスのパッションソルトさん。
運営とのパイプを持つぺんちょさん。
デザイン部のリアムンさん。
制作部のリヨウさん。
警備部のオーブンさん。
宴会部のまこちゃんさん、ユウホさん。
初心者案内部のルドさん、ハマヤンさん。
クリプト部のビットンさん、ベンガさん。
など、その他二十人ほどのギルメンたち。
そしてクイーンギルトのウミユキさんが参加していた。
リアルタイムで通信ができないので、俺はあとからこの会議の様子を録音で聞いた。
だから誰の発言か分からないところもある。
「えっと、もうみんな揃ったと思うので、そろそろ始めるよー、パッション!」
ギルマスのジショさんがXANAに囚われの身なので、会議を仕切るのはサブマスのパッションソルトさんだ。
彼の会話にはパッションがたびたび出てくるが、それは気しないで欲しい。
たぶん情熱がありすぎて、心の声が漏れてしまっているのだろう。
「それじゃ、ぺんちょさん、運営さんからの情報をお願い。みんなのマイクはミュートにするから、とりあえず話を聞いてから、質問があればマイク申請してね」
議長役のソルトさんが、ぺんちょさんにマイクを許可した。
「うんと、まずは、XANAからの強制ログアウトと、仲間がバグバスターペンギンに襲われている件なんだけど……」
そこで一呼吸はさむ。
「あのペンギンたちは、そもそもXANAのバグを駆除するプログラムぺん。それが不具合で実体化されているみたいだぺん」
参加メンバーの多くが少し驚いた顔をした。
マイクは許可されていないので声は聞こえないが、えーっという声を上げた者も多そうだ。
「第三世代マザー、面倒くさいので、通称『イブ』で通すけど、それがXANAのマザーを侵食してきたためにバグが発生したと判断。それで自動で排除プログラムが動き出したぺん。しかしイブに浸食を受けているため、その影響でメタバース上で実体化しているらしいぺん」
「なるほど、例えると白血球が異物を排除するみたいな感じか。まあ、暴走しているみたいだけど、パッション」
「強制ログアウトが起きたのも、安全装置みたいなもので、ユーザーを守るために作動したぺんね」
「ただイブゴーグルをつけてた人は、おそらくバグ扱いでログアウトされなかったと思われるぺん」
「パッション! なるほど、保護対象ではなく、排除対象ってことか――」
「そういうことになるぺん。だから、中に残されたメンバーは、バグバスターペンギンたちに攻撃されてるぺん」
「なるほど、つじつまが合うね、パッション――!」
「そうだぺんね」
「あと、知らない人もいるから、ぺんちょさん、現在の状況を説明しといたら?」
「ああ、そうぺんね。俺の状態はイブゴーグルがずっとつながったままの状態だぺん。だから、今もつければ会話ができるけど、画面はくるくる回るマークがずっと出ている状態だぺんね。たまに画面は更新されるけど、静止画状態ぺんね。少し前にイブゴーグルをつけてギルマスたちと話していたぺん。三十分ぐらい話していたら、そのまま意識が吸い込まれそうになったので、ヤバいと思って外したぺん。それと推測だけど、脳波を拾っているらしく、イブゴーグルを装着しないとマイクが無効になって、XANAからの音も聞こえないぺん。だから、こちらのゼーム会議を向こうにつなげることはできないぺん」
「厄介な代物だね、このイブゴーグルは、パッション――! じゃあ、次行っていいかな?」
「いいぺん」
「次はゲストで、海外勢の情報に詳しいクイーンギルトのギルマス、ウミユキさんに情報を提供してもらうぺんね。ウミユキさんお願いしますぺん」
ウミユキさんのマイクアイコンが点滅し、ソルトさんが許可を出した。
「はい、ではお伝えします。海外ではイブ仕様のゴーグルが、昨日発送されました。時差もあって、使っていた人は少なかったようです」
「なるほど、それで日本人の被害が多いのか、パッション」
「はい、そうなんですよねー。海外では、中に取り残されたのは十人未満との情報です」
「日本じゃ、五十人ぐらいはいるらしいからね、うちのギルドだけでも十人ほどいるし、パッション――」
「そうですね。ただ、原因はわかりませんが、二人ほど亡くなられた方がいるとのこと。一人は持病持ちの高齢者、もう一人の情報は不明です。日本の方という情報も当初はありましたが、海外の方のようです」
「我々のようなギルト単位での、海外情報はある?」
「はい、ピッグヘッドというアジア系のギルドが、やはりメンバーが取り残されていて、正確な情報ではありませんが、救助メンバーを集めているという噂を聞いています」
「了解です、ウミユキさんありがとう。引き続き情報収集をお願いできますか? 今後、海外のギルドとも連携が必要になる気がするからね。パッション!」
「はい、わかりました」
「あっそうだ、言い忘れてたぺん」
「なに? ぺんちょさん」
「えっとねー、今クマさんギルドのメッツさんや、他の大手ギルドとも連携を取れるように、ギルメンのジャッキーさんに動いてもらってるので、また情報が入ったら伝えるぺん」
「了解。では、他に質問したい人はいる? パッション――!」
数名のマイク申請が点滅した。
「えっと……じゃあ、デザイン部長のリアムンさんから、どうぞ」
リアムンさんは今や大人気のリアムアバターの製作者で、NFTアーティストとしても名が広まり、その作品は高値で取引されている。
「ねーねー、それじゃあさ、私たちもイブゴーグルつけたら、中に入れるの?」
「いや、入れないぺん。XANA側の安全装置が働いているから、今は誰も入れないぺん」
「じゃあ、その安全装置? それ止めたら入れるのかな? というか、止められるかしらんけど……」
「うーんと、その安全装置もイブに侵食されているから、コントロールを取り戻すのに時間がかかるし、完全に取り戻すにはイブを取り除かないとだめみたいぺん。仮に安全装置を完全に止めた場合、逆に侵食が……」
「侵食が早まって、イブに乗っ取られるのを助けてしまうってことか……な?」
「そうなるぺんね。ただ数分ぐらい止める程度なら……。今運営さんが既に試みようとしているけど、少なくとも準備に三日はかかるらしいぺん。ただ安全装置を止めてログイン制限解除しても、ワールドに入るときは、イブのブロックを通れるイブゴーグルが必要だぺん」
「そして……イブゴーグルだと、ペンギンたちに攻撃されると……なるほど。現状が理解できた。とりあえず、それぐらいかな……ありがとう」
「じゃあ、次は警備隊長のオーブンさん、どうぞ」
ソルトさんが、マイク申請を許可する。
「ありがとうございます。今ギルマスたちはそのペンギンたちに襲われて、危ない状況なんですよね?」
「パッション――、九十分間隔で襲ってくるらしい」
「警備隊長としては……俺としては、可能であればすぐにでも救援に行きたいです」
「パッション――! そうだよね、俺も行きたい。ただ、その辺のリスクはどうなのかな? ペんちょさん」
「……」
「ペんちょさん――?」
「あっ、ごめん意識飛んでたぺん……」
「うん、いいよ、ずっと寝てないよね。疲れてるよね。会議終わったら少し休んで、パッションも過ぎると体がもたないから」
「うん。えっと、なんだっけ……」
「パッション、入った場合のリスク、入れたらだけど……」
「そう、入るのはいいけど、まだ出る方法が全く分からないから、永久に出られないかもぺん。考えたくないけど、最悪の事態も考えられる……つまり命の保障がないぺん」
「でも、ペんちょさんは意識をメタバース内に取られずに、戻ってこれるんですよね?」
「うん、ただ三十分過ぎたくらいで、ゴーグルをつけてる感覚がなくなってきて、そのまま居るとヤバいと思ったぺん」
「なら三十分ぐらいなら入っても戻ってこれるってことですよね?」
「――いや、そこは確信が持てないぺん。俺は途中でロックされた状態だから、そのせいで長くとどまれるのかもぺん」
「じゃあ、三日後? 俺が試してみましょうか? 五分ぐらいとか?」
「うーん、なんとも俺には判断が……リスクあるからぺん」
「それでも俺は、このまま仲間を見殺しにはできないです――!」
この発言をきっかけに、あっちこっちからマイク申請があった。
「パッション! みんなの気持ちは分かった。パッション! でも少し冷静になろう。幸いにもまだギルドハウスのメンバーたちは持ち堪えている。地下迷宮オブロに向かったメンバーがなんとかしてくれる可能性もある。ギリギリまで待って、それまでには救援も考えたい。もちろん今のうちに有志を募っておくのはいいと思う、パッション――。但し、ちゃんと家族の事も考えてね。パッション――だけじゃだめだよ」
いつも自分でパッション――って言ってるじゃん……と録音を聞いたとき突っ込んだのは俺だけだろうか?
「そうだね。まだあと三日は入れないだろうし、そうしようぺん。特にオーブンさん、子供生まれたばかりだよね。自分だけで判断はだめだぺん。家族のこともよく考えてぺん。みんなもぺん」
「分かりました、すみません……ついアツくなってしまいました」
「全然オッケーぺんよ。その気持ちは受け取ったぺん! 警備隊長として有志を募っておいてくれると助かるぺん」
「はい!」
(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)