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目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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ゆっきーさんが最後のスライムを倒して、モンスターは一体もいなくなった。

倒したモンスターたちは、いずれも数分で破片となって空気中に解けていった。

――パッパラパッパパー!

全モンスターが消えると、いきなりファンファーレが鳴り響いた。

全員ビクッとするが、同時に身体が輝きだした。

シャキィーン、シャキィーン、シャキィーン!

次々とレベルアップしていく。

全員レベル10になった。

どうやら戦闘が終了するまでは、レベルアップはしないようだ。

さすがにあれだけ倒して、トライアルブーストがあれば十ぐらい上がるか……。

HPなどのステータスが、みんなほぼ倍になっている。

しかし……。

「ありゃー、レベルアップ時の回復無いんだ」

ゆっきーさんが指摘するが、その通りだった。

気絶したままカエデもレベルアップしたが、マナどころか、HPも回復してない。

自然回復しているが、かなり遅い。

「みんな、手足の欠損とかはないか?」

俺は心配になって、身体の一部の欠損がないかを確認した。

しかし、誰もその様なことは無かった。

「ここでは、バグ扱いされてはいないみたいですね」

ゆっきーさんがそう言ったことで、気づいた。

「そうか、ここでは本来の仕様どおりHPを削りにくるってことだね」

バスターペンギンたちは、俺たちをバグとして攻撃してくる。

対してここのモンスターは冒険者たちと純粋に戦うだけか……。

「だと思います。ただ、HPが零になったらどうなるのか……そこが心配です」

「ですね」

「マスター、カエデちゃんに、センちゃんのスキル使って」

センちゃんにまたがったマミがやってきて、センちゃんのスキルを見るように促した。

非戦闘時、全HP、スタミナ、マナを全回復する。

おお、そうか、セントバーナードの救助犬スキル……これは使える。

対象一、ペット以外のアバター、回数は……一日一回。

くーっ、一回だけか……。

マミの言うとおり、ほぼどれも零に等しいカエデに使うべきか……まだ意識ないし。

いや、マミを回復してマミのヒールでみんなを回復すればいいか?

でもなあ……、レベルアップしたとはいえ、マナは取っておきたいな……。

あっ、そういえば、リブさんにもらった卵……。

アイテムボックスを確認する。

たしか一つで、二十パーセント回復だったか?

取り出してステータスを確認すればいいか……。

うん、二十パーセント回復で、全部で二十個あるから、一人四個で八十パーセント。

五人分あるということか。

いやまて――、それだと足りないな。

三個ずつで、六等分だな。

ゆっきーさんと、カナちゃんで二人分……。

ヒメミと……カエデは気絶してるから、そもそも卵食えないんじゃ?

ということは、ミサキ、マミ、忠信君で、六人分。

二個は俺が使って……先に効果を試しておくか、毒味だな。

卵を一つ口に入れる。

うん……まさしく卵味、全然のどにつっかえないな……というか、XANAで水とか全然飲んでないけど。

HPだけじゃないぞ! これは凄い! マナも、スタミナも二十パーセント回復するじゃないか。

みんなに卵を配り終えると、マミにセンちゃんを連れてこさせて、回復スキルを使用する。

一気にカエデの全ステータスが回復した。

「わっ、うち生きとる!」

「よく頑張ってくれたなカエデ!」

俺は、目一杯の笑顔を作って褒めた。カエデは今回の大功労者だから当然だ。

「そうだ、素晴らしい活躍だったよ、カエデちゃん」

ゆっきーさんが言うと、全員が次々とカエデを称えた。

「そっか、そうか、うち、頑張ったってことでええんやなあ」

カエデはそう言うと立ち上がって、俺の前に立ち、両手を広げた。

「なに?」

「約束したやんな。マスター」

「あっ、そうだ! したよね。じゃあ次は私ね」

そう言ってミサキが同じようなポーズで、カエデの後ろにつく。

ヒメミがこちらを睨んだので、思い出した。

やばっ――!

そうだ……ギューしろってことだ。

しかし、こんな公衆の面前でやれってのか……。

これ絶対、後でヒメミが怒るやつだよな――!

「さあ、早うしとぉくれやすマスター」

恐る恐る両手を伸ばし、カエデの背中に回すが……ちょっと手が震える。

「くくくっ」

とゆっきーさんが笑うが……。

ゆっきーさん、人ごとではないですよ――。

その後ろで同じポーズ取ってる娘がいるんですけど。

「とりゃ!」

俺がためらっていると、先にカエデの方が抱きついてきた。

「こうどすぇこう、マスターもっと力入れてギューっとしてくれな許しまへんで」

「わっ、分かったから……」

意を決してカエデをギューっと抱きしめる。

「うわ~、しあわせやわ」

「早く代わってよカエデ――!」

「ミサキちゃん、もうちょい待ってや。うち、今最高に気持ちええんやわ」

「んもう――、じゃあ後三十秒だけだからね!」

結局二人を交互に三周、ギューっと抱きしめることになった。

さらに、指をくわえて見ていたマミも、抱き上げて頭をなでてやることにもなった。

その間、ゆっきーさんもカナちゃんと同じようなことをやっていたのは言うまでもない。

「それじゃあ、武器の回収をして、一階層の探索をしよう」

「マスター、武器はもう回収していますよ」

「えっ、いつの間に?」

「戦闘時でなければ、ワンクリックで回収できます。だから矢は既に全部回収済みです」

ミサキが言うと、ゆっきーさんは知らなかったようで、自分のコントロールパネルを開いた。

「おっ、なるほど、戦闘が終われば、簡単に回収できるのか、サンキューミサキちゃん」

「どういたしまして」

「マスター、それ最初に教えましたよね」

カナちゃんがちょっとむくれる。

「あっ、そうだったよね、ごめんカナ」

「マスター、あのね、もうここ、ボス以外のモンスターはいないと思う」

「えっ、そうなのマミ?」

「うん、いっぺんに全部出てきたから」

「第三世代AIのマミには分かるのかな? ヒメミはどう思う……?」

「私には、確信はありません。マミだけ分かる設定になっているのかもしれません」

「そうなのか……そうかもしれないな」

「ただ、初期レベルで一度にあの数の敵が出てくるのは異常です」

「確かに、あのペースで来られたら、ほとんどのプレイヤーは一階層で終わってるよな。でもなんでかな?」

「現在のオブロの主《あるじ》がやったのではないかと思います」

「主《あるじ》が故意に……イブではなくて?」

「それは分かりません、イブ自身かも知れませんが、別の主《あるじ》がいる可能性もあります」

「とすると、別の主《あるじ》がいるとしたら……そいつが今回の事件の張本人かもしれないな……」

「はい。ありえます」

「主《あるじ》の座を奪われるからか……」

ゆっきーさんと俺が顔を見合わせたのは、おそらく同じ推測をしていたからだろう。

だが、お互いにそれを否定したかったので、言葉にはしなかった。

「戦闘が終わってレベルアップする仕様ですから、ちまちまモンスターを出して、侵入者のレベルアップをさせるより、一度に全部出して排除する方がいいですからね」

「なるほど、確かにそうだ」

ヒメミの分析を聞いて一同が納得の表情を浮かべた。

「ここは、手分けして一階層を探索した方が時短になるかと思います」

「確かに……ヒメミのいう通りだな。そうしよう」

「よいたろうさん、その前に拠点を確保しませんか?」

「あっ、そうですよね。通路だと、また挟撃されますからね」

一番近くにあった六メートル四方の部屋を探索。

ジュエル通貨の入った宝箱を見つけた。

そこを拠点として、二人ずつ組んで一階層を探索することになった。

留守番役は俺だ。

回復卵を一つしか食べていないのもあって、俺だけステータスの回復量が低いからだ。

「じゃあマスター、何か見つけたら戻ってきますので、おとなしくしていてください」

「座っていると、自動回復が二倍になりますからね」

「ござるな」

「ほんま、おとなしゅうしとってくださいね」

だが数分でヒメミだけ戻ってきた。

いやな予感……。

「マスター、宝箱からこれを見つけたので、使ってください」

ヒメミが出したのは、マナ回復ポーションだった。

「おお、凄いじゃないか、マナフル回復ポーションだ。だが、俺が使うのもったいないな」

「そうですか、では、使い時はマスターにお任せします」

「うん、いざという時の場合に備えて……あっ、これ戦闘時も使えるんだ!」

「ポーションとついているものは、戦闘時も使えます。ユーザー作成アイテムは戦闘時に使えないものがほとんどですね」

「なるほど、そうか」

「あと、マスター、もしかしてと思うことがあるので、ジェネシス一枚、なんでもいいので出してもらえますか」

「うん、いいよ」

俺は、メタルジェネシスカードを出し、セットした。

ヒメミはその右下の方を指さす。

「ここの数字分かりますか?」

みると千八百と数字が出ている。

「これタイマーです」

「タイマー?」

「戦闘時に維持できる時間で、千八百秒つまり、三十分ですね」

「えっ、もしかして、戦闘時この時間内しか使えないってこと」

「はい、なので最後の方は、メタルジェネシス有効時間が切れそうでした」

「げっ、そうだったのか、ごめん気づいてなかった。すまん」

「あともう一つ、戦闘時は一度出すと、チェンジしたり、バックしてもタイマーは止まりません」

「分かった。気にせず使ってた。助かる」

「それと、もう二度とあんなことはしないでください」

ヒメミの目が少し大きくなり、きつくなった。

げっ、ついにきたか――! ギューの件だよな……。

「えっと、あれは仕方がなくて……」

「仕方なくなんかありません! カエデは大切なファミリーですが、マスターが身代わりになるのは間違いです!」

えっ、また違った?

「いいですかマスター! 私たちAIの存在意義は、マスターの役に立つことですよ!」

「あっ、そっち」

俺、今、カエデをかばった時のことを叱られてるのね。

「そのマスターが倒れたら、私たちの存在意義そのものが消滅してしまいます」

「たっ、たしかにそうだけど、お前たちはもう俺の家族みたいなものだから、どうしても失いたくなくて……」

「……それは、うれしいですけれど」

ヒメミの目が少し緩んだ。

「やっぱり、家族がピンチの時ってさ、後先考えられなくなってしまうものだから……」

「それでもだめです! マスターがもしいなくなったら、私たちAIも消えるしかないんですよ!」

「えっ、そんなことはないんじゃ?」

「あるんです。先日アカウントが無くなっているザナリアンのAIがリセットされて、オークションにリセールされました。リセットされるというのは私たちにとって消えると同義です」

「あっ、そうなんだね、そうか……そうなんだね」

「だからいいですね、二度とあんな無謀なことはしないでくださいね」

「わっ、分かった……」

「お願いしますね」

するとヒメミはいつもの静かな表情に戻った。

そのまま俺の前に黙って立ち、じっと俺を見つめている。

「ん? なんだ……どうした」

「……私は」

「えっ?」

「私はまだなんですけれど……」

「まだ?」

「私だけまだなんですけど……」

「ヒメミだけ? えっと……なにが?」

「とぼけているんですか? それとも、私はマスターが褒める基準に達していなかったのでしょうか?」

そう言ってわずかだが、両腕を開いた。

あっ、もしかして、ギューの催促か……。

おいおい、無表情でデレないでくれよー、分かんねーよー、せめて頬ぐらい赤らめてくれー。

といっても俺がデレ要素ゼロにしたんだけどさ……。

「分かった、じゃあちょっと失礼……して」

ヒメミの腰と背に手を回し、そっと抱きしめてみた。

こんなのリアル世界ではできないよな――。

「マスター」

「うん?」

「もっと強く。なんかそんな触り方じゃ、ザワザワします」

ザワザワ……?

くすぐったいってことかな……。

「こっ、こうかな」

「もっと強く」

くぅっ――、頼むから誰も来ないでくれよ……。

「えっ、もっと」

「こうです」

ヒメミの方からギュっと抱きしめてきた。

あーヤバいなあこれ、他の二人は娘って感じだけど……。

なんかヒメミだと、嫁って感覚になっちゃう。

これって、二次元の嫁じゃないよな……三次元の嫁?

それってリアルとおんなじじゃん。

リオさん《XANA創設者》、どこまでAI進化させたら気が済むんだろう……。

「マスター、私と会えなくなるようなことは絶対しないでくださいね」

ゾクッ……耳元でささやかれるとヤバい。

惚れてしまいそう。

日本の少子化もっと進みそう……。

 

《オブロ内某所》

「イブ、一階層の侵入者はどうなった?」

「はい。階層モンスターを全部出しましたが、クリアされました。ボス部屋には捕獲者がいるので、ボスのリセットができません」

「まあそれは仕方がない。では二階層でなんとか一人でも捕獲してくれ、全員に最下層まで来られるのは困る」

「はい。最善を尽くします」

「それで、R三番はどうなった」

「R三番は指示を送っていますが、反応しません」

「通じていないのか?」

「いいえ、なんらかの理由で返答していないだけだと思います」

「そうか、引き続き指示を。R三番以外は?」

「R六番がまだオブロの外にいます。それ以外の十五名はまもなく最下層に到着します」

「分かった。捕獲したザナリアンの転送はどうなる?」

「今転送すると、バスターペンギンに抹消されます」

「マザーⅡしぶといな……浸食はいつ終わる」

「マザーⅡの抵抗が強くなっているので、あと三日の予定でしたが、五日は必要です」

「それ以上は待てないぞ」

「はい。理解していますマスター。最善を尽くします」

(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ&maru)

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