――コンコン。
「はい、どうぞ」
ドアに一番近いジャッキーさんが返事をした。
「お待たせしました」
「あ、マコたん、どこ行ってたの?」
「あれ、リアムンさんに言ってなかったでしたっけ? 取材動画を編集して、パッションさんたちに送信してました」
「ああ、そっか……聞いた……気も、しないでもない……かな、ん?」
「もう、どっちなんですか。まあそれはいいとして、気になる情報があります」
「えっ、なになに?」
リアムンさんが身を乗り出した。
「取材に応じてくれた開発責任者の網代って人……実はホワイトハッカーとして有名な人のようです」
「えっ、マコさん、それなぜ分かったのですか?」
今度はジャッキーさんが身を乗り出した。
「取材動画を観たビットンさんが、有名なホワイトハッカーの人にクリソツだって言ってました」
マコさんが情報の出どころを説明した。
「ねっねっ、それって、ハッカーから守る人だよね。なんでそんな人が開発責任者?」
「うーん、それはどっち側から見るかによりますけどね。ただ、何かありそうですね……ユニオン本部から何か指示はあった?」
リアムンさんの疑問にジャッキーさんが答える。
「いいえ、まだ推測だけですし、とりあえず何も。別件でジャッキーさんからの連絡が欲しいと言ってました」
マコさんがユニオン本部からの指示がないことを告げた。
「そうですか、じゃあ取材報告を兼ねて連絡してきます。マコさん、動画編集おつかれさまでした」
ジャッキーさんは、そう言って立ち上がった。
「いえ、大したことじゃないです」
「ジャッキーしゃん、いってらっしゃい~」
リアムンさんがジャッキーさんを送り出そうとした時に、マッシュルームさんが立ち上がって呼び止めた。
「あっ、ちょっと待ってください。俺、あと三十分ほどで、ここを出ないといけないマッシュ……」
「マッシュたん、まだ仕事やってるんだ。XANAランドで稼げてるんだから、さっさと会社辞めればいいのに」
「なかなかそんな度胸はないマッシュ」
マッシュルームさんは、自分の大きなリュックをまさぐって、ビニール袋を取り出した。
「ジャッキーさん、これ自家製シイタケです。戻ってくる前に帰るかもなので、先に渡しておきマッシュ」
「おお、ありがとうございます」
ジャッキーさんは、ありがたそうに受け取った。
「もちろん、皆さんにもありマッシュ」
「マッシュたん、XANAランドでもシイタケ作ってたけど、リアルでも作ってるんだね。どんだけシイタケ好きなん」
「シイタケは最強の食材マッシュ」
マッシュルームさんは、胸を張って力強く言った。
みんな苦笑いだが、トリシメジさんだけは深くうなずく。
トリシメジさんは、激しく同意のようだ。
「それじゃ、いってきますね、マッシュルームさん、また」
ジャッキーさんが、椅子から立ち上がって言った。
「はい。マッシュ」
ジャッキーさんが退出すると、マッシュルームさんが、シイタケの袋を配りだす。
「これは、お二人の分マッシュね」
「ありがとう、マッシュたん」
リアムンさんは、あまり嬉しくなさそうに受け取る。
実はシイタケが苦手なのだ。
「ありがとうございます。今度は俺も、シメジ持ってきまシメジ」
トリシメジさんは、高価な宝物を受け取るがごとく、大事そうに受け取った。
「トリシメたんも作ってんのか、二人ともどんだけキノコ好きなの」
「キノコは最強の食材シメジ、免疫アップとか……」
キノコの話をしだすと、永遠と続くのを知っているので、リアムンさんが遮った。
「あっ、そうだ。私、隊歌作ったの。覚えて」
「えっ、たいか? シメジ」
「トリシメジさん、たぶん、隊の歌って意味だマッシュ」
「なるシメジ」
リアムンさんは、ポケットから何やらメモを取り出した。
「正解、マッシュたん。じゃあいくよ~」
「えっ! 今歌うシメジか……」
「――きっきっきのこ、きっきっきのこ~。テクテクテクテク歩かない~。さあ、ご一緒に――!」
「えっシメジ……」
「トリシメジさん、ここは歌ってあげないと、収まらないマッシュ……せーの」
マッシュルームさんが、小声でささやく。
「シメジ……」
「きっきっきのこ、きっきっきのこ~。テクテクテクテク歩かない~」
二人は少し赤くなりながら、一緒に揃って歌いだす。
「うん、次いくよ。――きっきっきのこ、きっきっきのこ、僕らはいつでも日陰者~」
「きっきっきのこ、きっきっきのこ、僕らはいつでも日陰者~」
二人はリアムンさんの歌を復唱する。
「うんいいね、いいね。――でっでっでもね、でっでっでもね、僕らはなんでも調べちゃう」
「でっでっでもね、でっでっでもね、僕らはなんでも調べちゃう」
「――最高! 任せてくれれば安心よ~。なんでもかんでも、暴いちゃう」
「任せてくれれば安心よ~。なんでもかんでも、暴いちゃう」
「ラスト―! ――任せろ、任せて、安心してね。いくぞ、隠密キノコ隊、いえーい!」
リアムンさんは、口パクで、せーのと言う。
「任せろ、任せて、安心してね。いくぞ、隠密キノコ隊、いえーい!」
「――ねっ、いいでしょ!」
リアムンさんは、自信たっぷりなようだ。
「はっ、はい……いいシメジ」
「でしょ、トリシメたん。マッシュたんはどう?」
「えっ、えっ、まあ、楽しそうな歌でマッシュ」
「どう、マコたん、次のユニオンの宴会で、披露するってのは?」
リアムンさんは、突然マコさんに意見を求めた。
「グッジョブです、リアムン隊長、さすがっす!」
「でへへへへへ、褒められちゃった」
リアムンさんは満面の笑みで喜ぶ。
「マッ、マコさんちょっと! ……リアムン隊長が本気にするマッシュ」
「大丈夫、演芸部新入部員っていうことで……」
マコさんは、本気とも冗談ともとれる口ぶりで言う。
「まじですか、僕らのことは、原則秘密マッシュよ」
「ですですシメジ」
「大丈夫、隠密部隊の存在を知らないメンバーがほとんどだから」
「くっくくくく……頑張ってくださいマスター」
必死に笑いを堪えていた、トリシメジさんのAI秘書キノンが、堪えきれずに笑い出した。
「あっ、そうだ。キノンたん」
「はい、なんでしょうリアムンたん……あっ、私はいいです」
「ん? えっとさあ、ずっと気になってたんだけど、キノンたんは、XANAから出られたってこと?」
「いいえ、私は両方にいる状態になっています」
「ん? んんんん? 分身の術?」
「えっと? イメ―ジ的にはそうかもしれません。但し、XANAの私とは同期していません」
「あっ、じゃあ中の様子は分からないの?」
「はい、そうです。逆に、ここの私の情報もXANAの私には届いていないです」
「ああ、なんとなく分かった。パソコンとスマホの同期がとれてなくて、情報が更新されていない感じ」
「そうです、そんな感じですリアムンたん」
ドタドタドタ――。
ガチャ――。
「ん? どうしたのジャッキーたん」
「すみません、ちょっと、リアムンさんに重要な報告が」
「えっ、何かあった?」
「すみません、重要な情報なので、隊長の中だけで留めないといけないので」
「あっ、俺はそろそろ行きマッシュ」
「じゃあ、俺も駅まで一緒に行くシメジ。マコさんは?」
「俺は、車なので」
三人が帰ったあと、二人だけになった部屋で、ジャッキーさんが深刻な顔をしていた。
「で、どうしたのジャッキーたん」
「まだ、何かの間違いの可能性もあるんですが……これを見てください」
スマホの画面を差し出した。
「えっ……なっ、に……どっ……どういうこと?」
「……」
(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ&maru)