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クリエイターズメタバース

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(う~ん……。イベント広場っていろんな催し物や公演が多いから、話に聞いたのがどれなんだか……ん?)

『いらっしゃい! いらっしゃい! 幻想的な空間を体感したいのならば、我らカラヴァッジョの作品をご覧あれ! 今なら無料だよ♪』

 まるでサーカス団のような建物の前に、これまた3頭身のピエロが軽く踊りながら宣伝をしている。

 アバター達が続々建物に入って行く姿を見て、人気があることが分かった。

(お客様が言っていたグループだ。今後のデザインに何か良いヒントを得られるかもしれないわね)

 無言で頷いたラビは、他のアバター達と同じく建物に足を踏み入れる。 

 中は真っ暗になっているものの、すぐにパアッと虹色の光が会場を包み込む。

 音楽が鳴りはじまり、リズムに合わせて様々なデザインの3Dイラストの映像が現れては消えていく。

(コレは……スゴイっ!)

 立っているだけなのに、映像が音楽と共に流れていくせいか、意識がこの世界に入り込んでいくのだ。

 華やかな季節の花々に包まれたかと思いきや、次の瞬間には爽快感がある夏の青空の中を飛んでいる空間になる。

(3Dイラストを映像化して360度に広げれば、確かに幻想的な空間になるっ……! それに音楽に合わせることで、視覚と共に聴覚までも引き込まれる技がスゴイとし言い様がないわね。この発想と展開、普通の人じゃ思い付きもしないかも……。カラヴァッジョって一体、何者なの?)

 音楽によって脳がリズムに揺られるたびに、刺激が常に与えられる。

 激しいロックからアニソンみたいな曲まで、短く編集されているが繋げ方に違和感が無い。

 そして時には歌声も含み、こういった世界に自分の全てが浸っている感覚になるのだ。

 あっと言う間に時間は過ぎて、終わりになる。

 建物から出たラビは、改めて先程の光景を思い返す。

(時間は5分程度だったけど、十分に満足できる体験だった……。ちょっと話を聞いてみたいな)

 先程見かけたピエロは、帰って行く客達を愛想よく見送っていた。

『あの、すみません。このイベントを制作したのはあなたですか?』

『うぅん。ボクはイラストを描いて、ここでお客さんを呼び込むのが仕事なの』

 ピエロの舌ったらずな言葉に、ラビは首を傾げる。

(キャラ……なのかな? 何だか子供と話している気がするけど、ここまでレベルの高い創作をするなら大人のはず……)

『それじゃあ担当者か責任者の人に会えますか?』

 しかしピエロは首を左右に傾げるばかりで、答えはない。

『あっ、ダメなら……』

『私に何か御用でしょうか?』

 そこへ、タキシードと帽子を身に着けた猫人アバターが建物から出てきた。

『申し遅れました。カラヴァッジョの責任者であるテトと申します』

 テトは礼儀正しく礼をする。

『あっ、突然すみません! わたしはファッションデザイナーの卵のラビです。実は先程のイベントがとても感動的でして、ちょっとお話を聞かせてもらえないかと思いまして……』

『はあ……。でしたらこちらへどうぞ』

 テトの案内で建物の裏へ回ると、公園のような場所が現れる。

 公園の中のガゼボに入り、二人は椅子に座った。

『ラビさんのことは、ウチのクリエイター達からも聞いておりますよ。素敵なアニマルアイテムをお一人で制作・販売しているとのことですね』

『現実世界ではファッションの専門学校に通っているんですけど、わたしが作った作品は現実世界では厳しいようで……。でもこちらの世界では受け入れてもらって、今は幸せなんです』

『そう……ですね。現実世界では厳しくても、こちらの世界では変わり種でも受け入れてくれる人は多いですから』

 どこか含みのあるテトの言葉に疑問を持ったものの、踏み込むことは今はまだ早く思えたラビは話を変えることにする。

『あの先程のイベントですが、複数のクリエイターさん達が合同で制作したんですか?』

『ええ、そうですよ。少なくとも十人以上は関わっています。音楽は1曲ずつ、イラストも1枚ずつ、編集も担当している人が複数いまして、それぞれクリエイターが違うんです。私は総まとめ役みたいなものですよ。企画の発起人ですから』

『スゴイですね。みなさんは素人さんや学生さんですか?』

『素人ですよ。あまり売れていないと先に付きます』

 テトが苦く笑う理由を、ラビはよく知っていた。

 専門学校を卒業しても、その道のプロになるには時間が必要となる。作品が売れなくても活動し続けなければ、プロの道すら消えてしまう。

 結果、苦しい生活を送っているクリエイター達は、世の中に数多く存在していると言えるのだ。

『あっあの! 不躾なお願いだとは分かっているんですが、わたしが作った着せ替えアイテムとコラボをしてもらうことは可能でしょうか?』

『……と言いますと?』

『わたしがデザインした着せ替えアイテムを着たアバターを、先程の映像として流して欲しいんです。言うなればCMみたいな作品を制作してほしくて……』

 あの幻想的な空間に身を浸している時から、ラビの頭の中にはこのアイディアが思い浮かんでいた。

 3Dイラストは音楽に合ったものだったが、自分が制作した着せ替えアイテムを身に着けたアバター達を同じように映像化して流したら、どんなに素晴らしいだろうかと――。

『ふむ……。クリエイター達にはアバターも制作してもらっているので、モデルの数は不足しないでしょうが……』

『もちろん少ないながらも報酬は出しますし、カラヴァッジョの宣伝もします! なのでこのコラボを考えてみてはくれませんか?』

『しかしラビさんのお店は繁盛していると聞きましたが……』

『うぐっ……! じっ実はですね、期間限定の出店でして、ここで売り上げや評判が良ければXANAの着せ替えアイテムの専属デザイナーとして雇ってもらえるかもしれないんです……。就職活動の時期なんですけどなかなか上手くいかなくて、ここが最後の砦と言いますか……』

 ラビは正直に話すことで、相手の信頼を得ることにした。

 実際に就職は決まっておらず、今の仕事にやりがいを感じているので、できればこのまま仕事を続けたいと思っている。

『――なるほど。そういった事情でしたら、少なからずお手伝いをしましょう』

『えっ?! そんなに簡単に決めてもらっても良いんですか?』

『ウチのクリエイター達にファンが多いのが一番の理由ですが……。何よりラビさんは誠実にウチを利用したい理由を話してくれましたからね。今までもこういったコラボの誘いは受けてきましたが、上辺だけの良い話だけを語られても信じるに値しませんでしたから』

 テトはハハハっと軽く笑い飛ばすも、言葉から滲み出る毒にラビはゾッ……とする。

(この人、物腰柔らかそうで実は毒舌家……!)

『ああ、そうそう。報酬ですが、お金よりもオリジナルの着せ替えアイテムを作っていただける方が、クリエイター達が喜ぶと思いますので、そちらでも良いですか?』

『もっもちろんです! 喜んで制作したいと思います!』

 そこで二人はガッチリと握手を交わした。

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