その後、ラビの着せ替えアイテムを身に着けたアバター達が、カラヴァッジョが新たに制作した映像空間の中で活動する姿はあっと言う間に評判となり、ラビの店には数多くのアバターが買い物に来るようになった。
弥生はお客様を飽きさせないように、次から次へと着せ替えアイテムを制作していく。
今も現実世界の自分の部屋で、タブレット端末とペンを使って新作を描いている。
(繁盛するのは良い事だけど、今はあくまでも契約期間中。過ぎればお店は無くなるんだから、その前に頑張らないと! ……でも、何でテトさん達はインタビューを断るんだろう?)
SNSで評判になると、メディアから取材が申し込まれることが多くなった。
もちろんXANAの制作会社を通じて話がくるのだが、テトはその全てをラビに譲っている。
(もしかして就職難民だと言ったからかな? 変に気を使わせたのかも……)
だがテトはカラヴァッジョのクリエイター達は、素人だと言っていた。
あまり売れていないとも言っていたので、こういうふうに知名度が上がることは弥生同様にありがたいことのはずだ。
「……でも思い返すと、不思議なグループなんだよね」
弥生はふとスマホを手に取り、カラヴァッジョを検索するもクリエイターグループというのは出てこない。
結成したばかりだからかと思っていたが、それでも全く検索に出てこないのもおかしい。
「ん~、でもXANAで出会ったクリエイター達は、普通だったしなぁ」
ある程度キャラを演じているのだろうが、話は通じるし、意見も交わせる。
悩んでいてもしょうがないと思いつつ考えていると、不意にスマホが着信の音楽を流した。
「あれ? この番号って……」
『テトさん、聞いてください! XANAの着せ替えアイテムデザイナーとして就職することが、正式に決まりました!』
以前テトと話し合ったXANAのガゼボの中で、ラビは興奮冷めやらぬ状態でテトに報告をする。
『それは良かったですね。お力になれたようで、安心しました』
『感謝しています! カラヴァッジョの人達のおかげです!』
公園には遊具が置いてあり、最初は気付かなかったが遊んでいるアバターは何とカラヴァッジョの人達だった。
ラビが制作した着せ替えアイテムを身に着けて、楽しそうに遊んでいる。
『そう言えば、カラヴァッジョの公演期間がもうすぐ終わるそうですね』
『はい、十分に楽しまさせていただきましたし、また機会がありましたら参加したいと思っています』
『でもXANAの制作会社から、継続のお話が出ていると聞きましたが……』
『そう、ですね……。でも我々はあまり目立ちたくはないんですよ』
テトは何故か現実世界で活躍することを望んでいない――と言うより、何かを恐れている。
『……あの、前から不思議だったんですけど、何でそんなに活躍することを控えるんですか? こういったイベントに参加するのなら、多少は目立ちたいと思っているんじゃないのかなぁと思っているんですけど……』
『作品自体が目立つのは構いません。……しかしクリエイター達が目立つのは、望んでいません』
暗い声と表情が、真実味を深くさせた。
『どうして……。有名になれば生活も楽になって、作品の制作にも集中できるようになるんじゃないですか?』
『それは……良い方に世の中が転がればの話ですね。ですがそう簡単にはいきません。必ず闇があります。その闇によって、クリエイター達が傷付くのを避けたいのです』
『もしかして、全員まだ未成年者なんですか?』
『一部はそうですが……、そうですね。ラビさん、もしお時間がありましたら、一度我々のアトリエに来てくれませんか? そこで現実世界の我々と出会ってみれば、理由はすぐにお分かりになると思います』
真っすぐに見つけられて、ラビは心臓が嫌な高鳴りをするのを感じる。
頭の中ではこれ以上、彼らに関わらない方が良いと分かっていた。
自分の就職のことで手一杯だったのに、他人の人生に踏み込んで背負わなくても良いことを背負いそうな予感がするのだ。
しかし心の中では、それで良いのか?という疑問が湧く。
あんなにも素晴らしい作品を制作できる人々のことを、もっと良く知りたいと思っているのだ。
今では似たような作品が増え始めているものの、やはりラビの中では最初に見たあの作品が心に強く深く残っている。
『……分かりました。住所をメールで教えてください』