ヤキスギさんが用意してくれたのは、背中合わせに背負えるおんぶ紐だった。
紐というより、リュックのようなイメージだ。
両手が自由に使えるのはありがたい。
ヤキスギさんとリブさんは、「そこまで送りますよ」と玄関まで見送りに来てくれた。
ギルドハウスを出るとき、あっ、これまずい――! と気づいたのだが、もう遅かった。
即座に三人のAI娘たちの鋭い視線が飛んできた。
いや視線だけではなかった。
ミサキとカエデが、ほぼ同時にすっ飛んできて、あっという間に取り囲まれた。
俺にとっては、飛んでこないヒメミの方が怖いけど……。
「ちょっと、マミちゃんどういうこと!」
「なんでマミだけ、そないなことしてもろうてんねん」
「いや、ちょっと待て……」
そこへ、ヒメミが急に二人を押しのけてきた。
そして俺に背負われているマミの右足に触れる。
そうか、察してくれたのか……。
「――どうしたのこれ!」
その言葉にミサキとカエデも、マミの右足の膝から下が欠損していることに気づく。
「やだ――なに!? その足――」
「ほんまや! マミの足があらへん……」
「――というわけなんだ」
俺は、先ほどのバグバスターペンギンたちとの戦いを三人に話して聞かせた。
うわっ――!
いきなりヒメミが抱きしめてきた。
だが俺じゃない。
背負われているマミを俺ごと抱きしめてきたのだ。
自分でもわかるほど、顔が赤くなった。
女性の方から抱きしめられるなんて、そんな幸せなことは、今まで経験がないのだから仕方がない。
「頑張ったね、マミ、偉いよ」
ミサキとカエデも、マミの傍までやってきて、その頭を撫でる。
「よくやったね、マミちゃん。マスターを守ってくれて本当にありがとう」
「見直したで! やるやん、マミっち!」
ふぅ、良かった――これで平和になるな。
三人の中で、マミの株が上がったようだし、うまくいきそうだ。
地下迷宮オブロでは、この娘たちの連携が重要となってくるだろうから。
「あれ、なんでマスターまで赤くなってんねん」
「いや、その……ちょっと暑くってさ」
マミは、少し頬を赤らめて照れたようだが、俺からは見えない。
「でも、そのままじゃマスターの負担になるから。私が背負います」
ヒメミは俺の返答を待たずに、強引におんぶ紐を外しにかかった。
「えっ、ちょっと……」
俺が全部言う前に、ミサキとカエデもそれに加担する。
「そうですね! そうするべきです――」
「そやな――。マスターに負担かけたらだめやんな!」
マミも抵抗するが、三人がかりでは徒労に終わったようだ。
少し不服そうな顔をしたマミは、ヒメミに背負われることになった。
俺は、前衛役のヒメミに背負わせるのはどうなんだ!? と思いつつも、それを言い出す勇気は出ない。
「よいたろうさん、これ持って行ってください」
リブさんが差し出したものを見ると、グリーンの卵だった。
「えっ、これは?」
「地下迷宮オブロ用に作った回復卵です」
「回復?」
「デュエルでは使えないですが、オブロの仕様書に従って作ったので、ヒットポイントが回復するはずです。ただし、まだ鶏たちのレベルが低いので、一個で回復する量は二十パーセント程度なんですけど。もし効果が出なかったらすいません。この状況ですから、試験もできてなくて」
「こんな素晴らしいものを……えっ、二十個もありますよ、こんなに……」
「ええ、もちろん! もっと差し上げられればいいんですが……まだそれだけしかできていなくて」
「いやいや、こんな貴重なものを、ほんとありがとうございます」
「僕からは、これを」
ヤキスギさんが差し出したのはJXBカードだった。
XANAメタバースの各種ショップで、店員AIに見せるだけで使える便利なプリペイドカードだ。
「えっ、これはまずいよ、通貨みたいなものじゃ……」
「いえ、ぺんちょさんを通して、リアムンさんから餞別に渡されたものです。これでオブロの装備を整えてはどうでしょう。仲間を救うためでもありますし、遠慮無く受け取っていいと思いますよ」
――なんかさっきから、俺、死亡フラグ立ってないか?
「ありがとうございます。必ず先行しているみんなと一緒に帰ってきます――!」
「はい、ぜひそうしてください。帰る場所は、僕たちが全力で護りますから」
ヤキスギさん、まじカッコイイ! 惚れちまうぜ――。
「ですね、俺もニワトリファイターにかけて誓います」
「こんな時でもニワトリ愛なんですね……」
ニワトリ愛の強いザナリアンは多い、既に五十羽を超えて飼育している人たちも複数いる。
そう言って三人で笑い、俺はAIたちとオブロに向けて出発した。
(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ)