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目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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桟橋にボートが近づいてくる。

カエデは相変わらず、船首に仁王立ちして腕を振り回している。

操縦席に人影は見えるが、まだ誰かは分からない。

ゆっきーさんが、XANAメタバース内にログインしていることは確かだが、マップを開いても表示されないし、通信もできないので、ゆっきーさんである確証が持てない。

それでも、特定の区域だけのようだが、ログイン状態だけでも確認できるのはせめてもの救いだ。

「マスター、ゆっきーはんどすえ。ユニオンのゆっきーはんどしたで――」

カエデの声が届いた。

やはりゆっきーさんか、でも他の三人は見当たらない?

船が桟橋に着いたので、急いで操縦席に向かった。

「よいたろうさん!」

「ゆっきーさん、よくぞごぶ……」

ゆっきーさんの両足はなかった。

「あははー、大丈夫ですよ、見た目はこんなんですが、痛くもかゆくもないから」

そう言われても、やはりなんか痛々しい。

「そっ、そうみたいですよね……やはりバスターペンギンたちに……」

「そうです、やられました。それで戦力にならないので、俺とこの娘、カナはボートに残ってました」

「なるほど、では、ダブルティムさん、たもつさん、ボタモチさんは、オブロに入ったんですね」

「そうです。あっ、詳しい話は後でします。あと五分ほどで奴らが来ます。早く全員ボートに乗せてください」

「わかりました」

俺はゆっきーさんに言われた通り、AIたちを急いでボートに乗せた。

ゆっきーさんはそれを確認すると全速力で、孤島に向けてボートを加速させた。

すごい、海岸ではあまり感じなかったのに、海に出たら磯の香りが漂っている。

「この海、結構リアルに再現されてるんですよ。まあ、島の向こう側で海は途切れているんで、面積的には少ししかないんですけどね」

「そうなんですね」

「フレンドのログイン状態を見ていただくと分かるんですが、島に近づくとログアウト状態に変わります。その辺から先はバスターペンギンたちは、なぜか襲ってきません」

「なんと! 安全地帯なんですか――」

「はい、安全地帯と言っていいのか分かりませんが……ただし、ここにいても何もできないので暇すぎますけど」

そう言ったゆっきーさんの口元が、微かにだが歪んだ。

「ゆっきーさん、もうペットのリビールができるの知ってます?」

「えっ、そうだ。今日でしたね――」

「もしかしたら、騎乗できるかもしれませんよ?」

「えっ、キジョウ……?」

俺は操縦室のドアから顔を出した。

「マミ、ちょっと来てくれる」

もうマミは、セントバーナードのセンちゃんをうまく乗りこなしていた。

自分の行きたい方向を意識するだけでセンちゃんは動いてくれるようだ。

「ほら、この子も足やられてて、最初は背負ってたんですが、ペットに乗れたので」

「おおー、そんなことが! カナ、操縦頼む!」

「はい、マスター」

「ほんとだ、ペットリビールできる!」

「騎乗できるペットがでるといいんですけど……」

ポン――!

「おっおっ? ねこだ?」

「これは、残念……でもかわいいですね」

ポン――!

「うわーっ」

「わー!」

でかい、ダチョウみたいなのが出てきた。

「こんな狭い操縦室であけるべきじゃなかったね、ごめん……」

壁まで吹っ飛ばされた俺にゆっきーさんが申し訳なさそうに言う。

「あっ、いや、自分が不注意でした。おー! これ乗れるじゃないですか――」

ゆっきーさんはしばらくの間、ダチョウを見つめていた。

すでに意識するだけで情報を得られることは分かっているのだろう。

「えっ、お――、騎乗可能、百キロまでだ。余裕だ!」

「よかったですねマスター!」

「うん、もうこれで、カナに背負われて移動しなくて済むよ」

「マスター!」

甲板でヒメミの声がした。

俺は何事かと飛び出た。

「マスターあれを!  鳩のようです」

船の後方十メートルぐらい、高さは二十メートルぐらいのところで、鳩らしきものがホバリングしていた。

「さっきまで近づいてきていたんですが、急にあそこで止まってしまって」

俺はすぐにその理由を察して、操縦室に飛び込んだ。

「ゆっきーさん、すみません、今すぐ二十メートルほど戻ってください!」

「えっ、なんか分からないけど――分かった。カナ戻って」

「はい、マスター」

俺は鳩が見えない境界線のようなものに遮られて進めないと判断した。

そしておそらくこの鳩は、ギルドからの通信ではないかと。

案の定、ボートを戻すと鳩がこちらへ向かってきて、俺の伸ばした腕に舞い降りた。

鳩に設定された目的地は、地下迷宮オブロの島、その域内にいるユニオンメンバーとなっている。

なるほど個々の居場所は分からなくても、この島まではマップで飛ばせる。

そして、ユニオンメンバーなら誰でもいい。

賢いな、ギルマスが設定したのかな。

これなら誰かに届く確率は高い。

通信内容は、リアルにいるギルドメンバーたちのゼーム会議の様子を、ぺんちょさんが自分の声で録音してくれたものだった。

今はリアルの世界から、何も持ち込むことはできないのだろう。

ぺんちょさんは、わざわざその内容をXANAに入って録音してくれたのだ。

そして、それとは別に新情報が付け加えられていた。

 

その内容は不穏なものであった。

声の主はギルマスだった。

『この情報は誰に届くか分かりませんが、追加で二つの情報があります。一つ目は、今回の事態はリアルデビルズ社関連企業のユーザアカウントが関与している可能性があります。二つ目は、現在、リアルでもXANAでも、どちらにも存在を確認できないユニオンメンバーがいます。それは、アヒル隊長と地雷さんです。伝達事項はこの二つです』

「ゆっきーさんこれって、どう意味でしょうか……」

「――考えたくないですが……この二人に注意すべきという意味ではないでしょうか」

「まさか……ユニオン内に今回の事件に関与している者が……」

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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