ふと、リアムアバターが右手に引きずっている、セクハラ上司おじさんと目が合った。
「おじさん、さっきは助かったよ、ありがとう」
おじさんが頬を赤らめてもじもじする。
――げっ、照れてるんかい!
「きもっ――!」
全員が俺の方に注目する。
「ゴメン、なんでもない……。俺、アバター着替えるよ」
そう言ってアイテムボックスから、海岸通りのショップで購入したリアムアバターを取り出す。
『交通事故で天国に行って、天使に輪廻転生を勧められたが、丈夫な体が欲しかったマロンは、地獄に行ってアンドロイドの体にしてもらった。そのとき捕まえた悪魔に首輪を付けて引きずり回している』
セクハラ上司よりは強そうだと思って買った。
このバグった世界で、設定が具現化しているとすれば、アンドロイドも悪魔も強そうだと思ったからだ。
「俺も着替えようかな……」
ゆっきーさんは、同じくリアムアバターの引きずるシリーズを着ていた。
ただし、引きずっているのはサンマだ。
そういえば、みんなアバターを着ていても、誰だか分かるのが不思議だ。
今までは、頭上にネームが出ていたが、バグってからは出ていない。
意識すればステータスを見ることができるが、どうやら『誰』という認識は自動的に頭に入ってきているようだ。
「――キャー!」
突然ミサキが悲鳴を上げて真っ赤になる。
「なっ、――何してるんですかマスター!」
「マスター、ここでそらまずいどすえ」
「殿、御乱心でござるか!?」
カナはゆっきーさんの背中に隠れた。
――えっなに? みんな俺のこと言ってる?
「おはぎついてる?」
「マミ、まだあなたには早いです!」
ヒメミが慌ててマミの目隠しをして、俺はようやく気づく。
アバターを脱いだ下はすっぽんぽんだった。
どうせ全身着ぐるみのリアムアバター。
インナーなんて見えないから不要だと思って着ていなかった。
――にしてもだ! なんで、裸体までリアルになってるんだよ!
今まで、ただのマネキンっぽい裸体だったろうが!!
バグってるったって、そんなところまでリアルにしないでくれよ……。
大慌てでアンドロイドのリアムアバターを装着した。
まるで遊園地の入り口で、裸体を晒した気分だった。
「くっくっくくっ……まっ、まぁそういうこともありますよ」
真っ赤になって凹んでいる俺をゆっきーさんは慰めてくれたが……。
俺以上に赤くなっていて、必死に笑いを堪えているのは明白だ。
オブロの入り口を開けて中に入ると、そこは大広間だった。
そこで各自オブロ用の装備を装着する。
俺は基本リアムアバター自体が装備だ。
用意していた職種は、バード。
吟遊詩人といってもいいか。
MMOではよくある、バフ、デバフの役割をするロールだ。
ゆっきーさんも別のリアムアバターに着替えたが、右手に持っていたサンマを、口にくわえたアバターになっただけだった。
そうとうサンマが好きなのか……。
だが、その理由は銛を持つためだったようだ。
右手に銛を一本、背中に五本の銛を袈裟懸けにして装備している。
中距離射程の攻撃力の高い、狙撃兵職だ。
「えっと、ゆっきーさん、戦闘隊形だけど……カナちゃんって、前衛?」
「です。火力と防御力の高いナイトです。前衛で盾役に設定しています」
「オッケーです。じゃあ、ヒメミはパラディンだから、カナちゃんと二人で前衛頼むね」
「はい、マスター」
カナがゆっきーさんに視線を向けると、ゆっきーさんが頷ずく。
「はい、よいたろうさん」
「第二列は……忠臣君とカエデと……ミサキかな?」
「――いや、よいたろうさん。射程からすると、ミサキちゃんより俺かな。彼女射手だよね」
「うん、そうですけど、危険度を考えると――」
「まあ二列目も三列目もたいしてかわらないんじゃないかな? 後方から来るって可能性もあるだろうし」
「マスター、私もゆっきーさんの案に賛成です」
「分かったヒメミ。じゃあ三列目に、ミサキ、俺、マミの後衛だ」
(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)