地下第一階層の探索が終わり、ボス部屋が確認された。
ほかのモンスターは全くいなかった。
ボス部屋をクリアすれば、二階層に行けるのだろう。
宝箱からマナ回復ポーションが数本見つかった。
HPやスタミナ回復ポーションはなかった。
ほかには、ミサキが使える矢が十本と薙刀、ゆっきーさんが使える投擲槍が見つかったのは大きな収穫だった。
「あとはここのボスだけだな。ゆっきーさん準備はいいですか?」
「はい、俺もカナも、大丈夫です!」
「では、ヒメミ、カナちゃん扉を開けて」
「はい」
「はい」
二人が両開きのドアを開けた。
既にメタルジェネシスは盾に付与済みだ。
盾を押し出しながら突入する。
続いて、前回と同じ隊列で、二列目、三列目があとに続く。
そこは二十メートル四方はあるかと思われるホールだった。
奥には扉が一つだけある。
なぜか既に開いていて、階下への階段が見える。
しばらく中央で身構える。
「何も起きないですね」
「ですね、ゆっきーさん、どうしましょうか?」
「奥の扉を覗いてみますか? 階段が見えてますけど」
「そうしましょうか?」
「マスター、あれなに?」
マミが上を指さした。
人が入れそうなほど大きな鳥かごのようなものが、天井から鎖でぶら下がっている。
もしかして、あそこにボスがいるのか?
「全員回避、何か落ちてくる!」
ヒメミが叫び全員が壁の方に散る。
――ぽたっ。
なにか黒くて小さくて丸いものが落ちてきた。
そして床にあたるとつぶれた。
「今、籠から手が出てきて、それを落としました」
「おはぎ」
マミが近寄る。
「ちょっと、マミ待ちなさい」
カエデがセンちゃんを掴んで止めた。
「だってあれ、おはぎだよ?」
「本当か?」
「私が確認します」
ヒメミが盾を構えて近づく。
言われてみれば、マミの好物のおはぎにしか見えない。
だが、罠ってこともあるよな……。
ヒメミが剣で突いたが、何も起きない。
「マスター、本当におはぎみたいです。つぶれたのでステータスは確認できません」
「もしかして……そこにいるのボタモチさん?!」
すると、籠から手がでてきて、サムズアップした。
どうやら声は出せない状態らしい。
「ボタモチさん、罠にかかったのですか?」
ゆっきーさんが叫ぶと、その手が、親指と人差し指で丸をつくった。
「これはどうしたものか……カナ、何か助ける方法はないか?」
「五メートルはありますね、私が届く距離ではないですね……」
「さすがに、ナイトが飛ぶことはできないよな……」
そのゆっきーさんの言葉にヒメミが反応した。
「それです、マスター! チュンチュンです」
「それだ! ヒメミ」
「マスター、パーティーを一回解散しましょう。そうすれば、チュンチュンもチュー太も出せます」
「おお、それだ! ゆっきーさん、一度解散しますね」
「了解です」
パーティー編成は十名までなので、ほかのペットを出すには、この方法しかない。
幸いボスもいないようだし、一度解散しても問題ないだろう。
まずは、雀のチュンチュンを出して、ボタモチさん宛にメッセージを入れて飛ばそう。
目視で籠から出ている手を意識すると、チュンチュンの設定が簡単に済んだ。
飛ばして数分すると、チュンチュンが戻ってきた。
返信メッセージがテキストで書かれている。
といってもキーボードを意識して思考するのも、声を意識して思考するのも、作業的にほぼ変わらないが。
『ボスは倒しましたが、戦闘中に気がついたらここに吊るされてました。
ステルスとサイレントをかけられてまして、たもつさん、ダブルティムさんは、僕が消えたと思ってます。
パーティーも別になっていましたし。
既に二人は、第三世代AIたち五体と、地下第二階層に行きました。
ゆっきーさんのプラティーも無事です。
たもつさんたちの第二世代AIは、全て海岸でペンギンたちにやられました。
ステルスの有効時間は切れたみたいですが、まだサイレントはかかっています。
ちなみに、ここには僕のAIユナとエリス、ジュリエッタもいます。
どうやらローグ系の鍵開けスキルとロープがあれば脱出できそうです』
「誰かロープ持ってるかな?」
「うち、持ってますで。くノ一必需品どすさかいね」
「あっ、そういえば、カエデって壁登れたよな?」
「マスター、あれを見てみとぉくれやす。あそこに忍者返しがあるんどす」
カエデの指さした方向をみると、壁と天井の角に、尖った棘のような何かが突き出ている。
なるほど、壁は上れても、天井には行けないのか。
「忍者対策がされてるんだな」
だが、カエデは無理でも、ネズミなら棘と棘の間を十分通れそうだ。
チュー太には、鍵開けスキルもあるし、まさにうってつけだ。
カエデのロープにさらに細い紐をつけて、チュー太に咥えさせた。
チュー太は簡単に壁を登り、天井の梁を渡って鎖を伝い、あっという間に籠まで到達した。
数分で鍵も解除し、籠の扉が外側に開いたのが見える。
ボタモチさんが、下を覗き込み、手を振った。
ロープを伝って、最初にAIが一体下りてきた。
メタバースジムを運営しているボタモチさんのAI秘書は、筋肉もりもりAIだ。
おはぎ屋の店員でなく、ジムインストラクター用のAIを連れてきてたんだな。
ということは彼女らは戦士系か……。
そのあとにボタモチさんが下りてくる。
床に着くと、俺とゆっきーさんに感謝の意を表して、手を握り合った。
最後のAIが下りると、チュー太がロープの一部を噛み切り、少し短くなったロープが籠から落ちてきた。
さすがにネズミに結び目はほどけない。
二階層に下りる前の準備をしていると、ボタモチさんにかけられていたサイレント効果が切れた。
「やった、喋れるようになった」
「おお、よかった。ボタモチさん」
「うん、よかった。マミ、この人がお前の好物のおはぎを作ってる人だよ」
「ふーん」
「あははははは、作ってる人になんて興味ないよね」
「うん、ない」
「おいこら、マミそこは……」
「あはははははははは、ほら、たくさんあるからあげるよ」
ボタモチさんが、アイテムボックスから二十個ものおはぎを差し出した。
「ありがとう! ボタモチさん、マスターの次に好きかも」
「おいおい、現金すぎないかそれ」
そこで全員大笑いする。
ボタモチさんが加わったので、パーティーを二つに分けることにした。
ボタモチさんとそのAI三体、リビールしたての狼犬とヤギのペット、そして、ゆっきーさんとカナとそのペット二体でちょうど十人編成。
ヤギのミルクには、回復スキル効果があるらしい。
俺の方は二体のペットを加えた、七人編成だ。
「どっちが先に行きますか?」
「たぶん僕が先に行くと、リセットされてボスが出てきちゃうと思います」
ボタモチさんたちは、一階層のボスを倒しているので、ボタモチさんがいる状況では、出てこないということだ。
「あっ、なるほど……」
パタン――!
パタン――!
えっ――?!
突然、入り口と出口の扉が凄い勢いで閉まった。
「何が起きた――!」
声を上げたのは俺だけだったが、全員がビクッとして緊張が走った。
どちらの扉も確かめたが、ロックされて開かなくなっているようだ。
「マスター、誰かオブロに入ってきたみたいだよ」
マミが言うと、多くのものが、その理由に気づいた。
「リセットされたんだ!」
と、ボタモチさんが言う。
「通路には、モンスターたちがあふれてるってことですね」
と、ゆっきーさんが言った。
「階下への扉が閉まったということは、ボスが出てくるのかな?!」
「それはないと思います。よいたろうさんたちが入ってきたとき、ボスは出ませんでした。たぶんクリアした僕がいるから」
「なるほど、それなら大丈夫かな……」
「ただ、入ってきたものが、この階層モンスター倒して、このボス部屋に来ないと、階下への扉は開かないと思います」
えっ、それヤバくない……。
「その人がクリアしてくれなかったら、ここに閉じ込められたままですね」
「そうだ!」
ゆっきーさんが思いついたようだ。
「カエデちゃんのスキルとかで開錠できない?」
「システムの仕様でのロックは開けられへんのどす。そやさかい、入ってきた人の援軍にも、階下層にも行けしまへんなあ」
「まいったな……とりあえず待つしかないのか……」
《オブロ内某所》
「マスター、再び侵入者です」
「まだ来るのがいるのか……」
「ザナリアンは一人だけです、なかにR六番がいます」
「そうか、これで、全アストロチャイルドがオブロに入ったな」
「はい。対応はどうしますか?」
「同じでいい」
「はい」
ぼっ、ぼっ、僕らはアヒル冒険団~♪
勇気りんりん、アヒル色~♪
希望に燃える、アヒル色~♪
怖いものなどあるもんか~♪
ぼっ、ぼっ、僕らはアヒル冒険団~♪
(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)