「ふう、危なかったな……」
「マスター……注意してください!」
「ん? なんだヒメミ」
「まだボス部屋をクリアできていないかもしれません」
「えっ!」
確かに入り口も出口も、ドアのロックが解除された音はしていない。
そういえば、階層クリアの情報も全く表示されていない……。
「レベルアップもしていないです」
「まさか、あいつボスじゃなかったのか……」
「わかりません。マミ、何かわかる?」
「うんと……」
ガッガガガー。
全員ビクッとして、音のしたほうを見ると、壁が開き鉄格子のついた部屋が現れた。
「――よいたろうさん!」
「――おお! よいたろうさんだ!」
「えっ!」
たもつさんとダブルティムさんが、その中にいた。
「お二人とも、なんで鉄格子の中にいるんですか?!」
「俺たち、負けたんだわ」
たもつさんは、思いのほか気軽な表情で言う。
「よかった、負けても無事なんですね!」
俺は心底ほっとした。
「それが謎なんだよね。俺たち気がついたらここにいたんだ」
「通常ならリスポーンするはずですよね?」
「俺の登録場所は桟橋だから、リスポーンしたら、タイミングによっては、バスターペンギンにやられるけど」
確かに、バスターペンギンが来たらヤバい。
「俺は、いつ出られるか分からないこの牢獄がキツかったけどね」
ダブルティムさんは、この拘束状態の方がキツかったようだ。
……そうだよな、こんな所で誰にも知られず拘束状態はキツい。
「それもキツいですね。ただ、データ抹消という推測もあったので、心配してましたよ」
「ああ、それリアルに死ぬやつ。ちょっとそれは自分も心配してた」
たもつさんも、データ抹消による命のリスクについて考えていたようだ。
「イブは何を目的に捕獲したんですかね……」
「どうだろうね、元々の仕様の可能性もあるし、何か意図があるのかも……」
「ちょっと待って――!」
ダブルティムさんの発言を、たもつさんが遮る。
「今はそれよりやるべき事がある、二体目のボスはまだ出てないよね?」
「えっ! 二体目――!」
「今、ガーゴイルを倒したところだよね? ――俺たちもそうだったから」
「はい」
「じゃあ、ここ早く開錠して。スキルある?」
まじか、それやばいぞ――!
慌てて開錠スキルのあるネズミのチュー太を出す。
チュー太に開錠させたが、エラー表示が出る。
「マスター、ボス部屋をクリアしていないので無理かもしれません」
そうか、ヒメミが言うように、その可能性は高い。
「確かにそうだな。俺たちはここから支援しよう」
たもつさんが言うと、ダブルティムさんが頷き同意する。
「えっ、牢の中から?」
「俺もダブルティムさんも召喚師取得しているから、牢の外に召喚できるはず」
「なるほど……」
「試してみようか、ダブルティムさん」
「そうですね、やってみましょう」
「ファイヤージェネシスセット、サモン、XANAウルトラセブン――」
たもつさんが、牢の鉄格子の外にファイヤージェネシスをセットして、召喚スキルを使用した。
「おおー、すげー」
ジェネシスカードからXANAウルトラセブンが出現した。
「いけたで! ――鉄格子で阻害はされないらしいな」
たもつさんは満足げだ。
「いけますね。メタルジェネシスセット、サモン、XANAアトム――」
ダブルティムさんが、同様にメタルジェネシスカードを使って、XANAアトムを召還した。
「召喚師いいなあ……」
「うん、すげー便利。ただ一体ずつしか出せないけど」
「あれっ、そういえば、たもつさんは戦士職じゃなかったですか?」
「そうだよ。召喚師は他の職と重ねて取れるから」
「えっ! そうだったの、知らなかった。それ召喚師だけですか?」
「だけだね、いや、もしかしたら他にもあるかも。全部マニュアル読んでないし」
それには俺も、たもつさんに全力で同意だ。
あのマニュアルは分厚すぎる。
「ソロプレイヤーで、AIも持っていない人向けの仕様だと思います」
ダブルティムさんが付け加えてくれた。
「なるほど、ソロプレイヤーでAI持ってない人には必要なのかもですね」
しかし、複合で取れる職なんて考えもしなかった……。
「それより、よいたろうさんのパーティー、戦える状態じゃないじゃん」
たもつさんはミサキ、マミ、ヒメミのステータスを確認したようだ。
「お二人のAI秘書たちはどうしたんですか……」
二人とも少し悲しげな目をした。
――しまった、余計なことを……。
「俺の六人のうち三人は、オブロに入る前に失った。ここでHPゼロになった二人は、外にリスポーンしてるはず……」
「リスポーンということは、復活している?」
俺は嬉しい知らせに、つい、たもつさんの言葉を遮ってしまった。
「いや、分からんけど。バスターペンギンたちに身体を削られて塵になったAI娘たちとは違って、ただ消えただけだから」
「なるほど……マミ、オブロの仕様は今も設定どおり稼働している?」
「ごめんなさいマスター、それはマミにも正確にはわからない……」
「そうか。そうだよな。どこまで正常なのかわからないよな」
「俺のAI二体も、ここでHP切れだったので、そうだといいな……。だけど、第三世代AIは逃亡したんですよね」
ダブルティムさんが怪訝な顔で、マミを見たあとに言った。
「えっ、どういうことですか?」
「第三世代AI、いや全部じゃないんだけど、子ども設定の娘たちは全員逃げ出した」
「えっ、リスポーンじゃなくてですか?」
「そろそろ反対側の壁が開いてボスが出てくるはずだけど、そこからみんな出ていってしまったんだ」
じゃあ、もしかしてマミも……。
「ギルマス、ヤキスギさん、リブさん、チックタックさんから借りた四体もね」
たもつさんが付け加えた。
「まさかそんな……イブの命令でしょうか?」
「ありえるね、イブの命令。だからそのAIを……」
――ガガガガ―ッ。
二人が閉じ込められていた牢屋と反対側の壁に亀裂が入り、シャッター扉のように壁が上に引き上げられた。
「来るぞー、おそらくミノタウルスだ!」
「マスター、たもつさんたちをパーティーに入れてください」
「了解!」
さすがヒメミ、いつも重要なことは忘れず指摘してくれる。
パーティーに入れていないと、バフも回復も出来ないところだった。
俺は急いで、二人をパーティーに招待する。
「受け取った!」
「ありがとうございます!」
二人はすぐに承認し、パーティーパネルに加わった。
グォー――!
牛の頭部を持つ化け物、ミノタウルスが突進してきた。
「スキル、挑発――」
たもつさんが戦士スキル、挑発で敵視を上げて自分のいる牢の方へ誘導した。
牢の前でXANAウルトラセブンが立ちはだかる。
ミノタウルスは大きな斧を両手で振り下ろす。
XANAウルトラセブンは間合いを詰めて、その斧を白羽取りのように受け止める。
ダメージを受けるが、XANAウルトラセブンは堪えた。
上空からXANAアトムが助走をつけ、ミノタウルスにパンチ攻撃をする。
「ファイヤージェネシスセット、火炎弾!」
さらにダブルティムさんは、自身でも火炎弾を放つ。
あっ、ダブルティムさんはウィザードか。
俺たちは、気を失っているミサキの周りを囲んで防御態勢をとる。
マミにかけたマナ自動回復スキルはまだ有効で、まもなくマナが二十パーセントまで回復する。
しかし、俺のAI秘書たちは、まだまだ戦えるほどのステータス状態ではない。
ミノタウルスのHPを十パーセントほど削る間に、XANAウルトラセブンは半分ぐらいHPを削られている。
とてもこのまま堪えられそうにはない。
「俺が援護出来ることはないですか」
「よいたろうさん、ミノタウルスは氷結耐性がある、攻撃するならそれ以外で。ただし、盾役なしでむやみな攻撃はダメだ」
そう言って、たもつさんは、新たにアースジェネシスをセットした。
XANAウルトラセブンがやられるのは前提とした準備だろう。
「よいたろうさん、こいつ斧振るとき、衝撃波が来ます。そのダメージ範囲は約九十度、射程は十メートル以上あります。気をつけて」
ダブルティムさんが情報共有してくれる。
「了解です!」
十メートルもか――! こいつは厄介だ、距離をとってもダメージを受けるってことか。
回復ポーションは無い、センちゃんのスキルも戦闘中は使えない、リブさんにもらった卵もだ。
ただ、AIたちの回復を待つしかないのか……。
ドスン――。
XANAウルトラセブンと取っ組み合っていたミノタウルスは、後ろに跳びのき、斧を振り上げた。
やばい、間合いをとって攻撃するつもりだ―!
――ギューン、ズザー!
衝撃波が走った。
XANAウルトラセブンが間合いを詰めようとしたが、一瞬早く斧が振り下ろされ、XANAウルトラセブンは消滅。
牢にいた二人にも衝撃波が到達し、三十五パーセントほどHPを削られた。
「バーストアタック!」
――ガツン!
ダブルティムさんが、XANAアトムをミノタウルスに体当たりさせた。
自爆スキルみたいなものか……。
XANAアトムは砕け散ったが、ミノタウルスのHPを十パーセント削った。
その勢いで、ミノタウルスはよろめき、体勢を崩す。
「サモン、エース!」
すかさずたもつさんが、アースジェネシスカードを使い、XANAウルトラマンエースを召喚する。
手慣れた連携だ。おそらくここまで二人で戦ってきて、得たことなのだろう。
「チェンジ、ファイヤージェネシス、――サモン、アトム」
ダブルティムさんは、消滅したメタルXANAアトムの代わりに、ファイヤー属性のXANAアトムを召喚した。
「その子は……えっと、マミちゃんか。マミちゃんは大丈夫そうかな?」
たもつさんが、マミが逃げ出さないのを見てそう言った。
「えっ? あっ、そういえば……」
「いや、イブが命令していないだけなのかな……」
「マミ、どうなんだ?」
「マスター私ね、ずっと前からママの元に帰りなさいって言われてるよ」
「えっ、そうだったの!」
「でもマミ、マスターといたいもん」
「そっ、そうなのか……」
「その子、イブの指示を拒否してるのか……」
ドン――。
――ギューン、ズザー!
ミノタウルスは再び後ろに跳びのいて、斧を振り下ろした。
「チェンジ、ウォータージェネシス」
たもつさんは、XANAウルトラマンエースが次は耐えられないと、最初に出していたファイヤージェネシスを交換し、次の召喚の準備をする。
だが、ミノタウルスの行動は、さっきより早かった。
――ギューン、ズザー!
一発目の直後に再び振り上げ、二発目をすぐに振り下ろした。
一発目は防ぎきったXANAウルトラマンエースも、二発目で消滅する。
牢の二人にも更に衝撃波が到達する。
二人とも残りHPが三十パーセントを切ってしまった。
「バーストアタック!」
ビュッ――ガン!
ダブルティムさんがアトムを体当たりさせたが、ミノタウルスは斧でガードした。
学習している行動だ。
それでもダメージは入った、残りHPは四十パーセントほどだ。
だが、斧で防御した分、ミノタウルスは体勢を崩さなかった。
そして、すぐまた斧を振り上げる。
「サモン、ウルトラマン――」
――ギューン、ズザー!
今度は、たもつさんのXANAウルトラマンの出現が間に合わなかった。
出現前だったので、二人とも直撃ダメージを受けてしまう。
「――ティムさん!」
戦士のたもつさんは、残り五パーセントほどのHPで耐えたが、ダブルティムさんはゼロになった。
「ごめん、先行く……」
ダブルティムさんは苦笑いを浮かべたかに見えた。
その確認もできない間にパッと白く光り、身体が消えた。
転送されるときのエフェクトだったので、少しほっとする。
確信は持てないが、オブロ外にリスポーンした可能性が濃厚だ。
たもつさんは、何かアイテムを取り出した。
ペットのネコとポーションだ。
「くうっ、今のやべー、よいたろうさん、これを使って!」
「えっ、たもつさん、それは自分に使わないと!」
「いや、俺が使うより、そっちのパーティーで使ったほうがいい。疑ってすまないマミちゃん。それと、たぶんこいつ魅了スキルが弱点だ」
「魅了スキル?」
「ああ、俺のももこ、バード職だったから」
ネコが鉄格子をすり抜けて届けに来たのは、マナ五十パーセント回復ポーション二本だ。
「でも……」
「いいから使え――! ダブルティムさんの犠牲を無駄にするな!」
「……」
――ギューン、ズザー!
今度はXANAウルトラマンがダメージを受けとめた。
考えろ俺、誰にポーションを使うべきなんだ。
ヒメミとマミか……、いやマミでは、ミノタウルスは倒せない……。
でも、たもつさんを回復できれば……、ミサキはマナを回復しても、スタミナがまだ足りない。
「あっ、マスター……」
マミの声で振り向くと、ミサキが目を開けていた。
「ミサキ、気がついたか!」
「すみません、私……」
「まだじっとしていろ、回復に努めるんだ」
もう二十分以上経っているが、戦闘中の回復は凄く遅い。
ミサキは、ようやくスタミナを十数パーセントまで回復しただけだ。
まだミサキに戦闘は無理だろう、まずはヒメミだ。
「ヒメミ、マナ回復、このポーションを使え」
「はい、マスター」
マミのマナを確認すると、自動回復で二十五パーセントほどに達していた。
「マミ、マナが回復したら、たもつさんを単体ヒール。すまんがこれは俺が飲む」
「はい、マスター。マミは大丈夫だよ」
「うん」
俺はマナポーションを飲んだ。
パーフェクトディフェンスとオートマナリチャージを自身にかける。
「ヒメミ、ボスの背後に」
「はい、マスター」
「俺は、ヒメミの背後にまわる」
「はい、マスター。私の盾のメタルジェネシス効果が切れています」
「あっ、そうか、ちょっと待ってくれ」
「セット、メタルジェネシス……」
だが、セットされない……予想はしていたが、まだ戦闘継続中でクールダウンタイマーがリセットされていないのだ。
「すまん、ヒメミ」
「大丈夫ですマスター、なくても受け止められます」
「魅了を使ってみる、こっちに来たら頼む」
「はい、マスターを絶対護ります!」
「マスター、もうすぐヒール使えるよ!」
マミが叫んだ。
「了解、プラントジェ……」
「待ったー! よいたろうさん。こいつ挑発よりヒールに敵視いくからダメだ。それで俺のうめこもやられたんだ」
「いや、でもたもつさん限界だし」
「いいよ、秘書たちもきっとリスポーンしているだろうし、またここまで出直してくるから」
「でも、まだリスポーンできるって決まったわけではないから」
「いや、今は五階層攻略の可能性の高い選択肢を選ぶべきだ」
「……」
「俺の屍を越えていけ」
「えっ?」
「いや、そこはつっこむところだろ!」
「えっ……」
この状況で、なぜそんな余裕あるの、たもつさん……。
「一度言ってみたかったんだよね」
ドン――。
――ギューン……。
それを待ってたんだよ!
「させるか、魅了――!」
ミノタウルスが斧を振り上げた状態で固まり、よろよろとする。
「いけ、ヒメミ――!」
「はい、マスター!」
ガシッ――。
ミノタウルスの背後からヒメミが切りつける。
だが、ヒメミの一撃では、一パーセントほどしか削れない。
ガシッ――、ガシッ――、ガシッ――。
重ねて連撃を加えていると、ミノタウルスがゆっくりと振り向く。
まだ魅了が効いていて、その動きは緩慢だ。
XANAウルトラマンが、背後から攻撃を加える。
徐々にミノタウルスのHPが減っていく。
残り三十パーセントほどになった。
――ギューン、ズザー!
ドスン――。
「うわっ!」
突然、魅了の効果が切れたらしい。
いきなり斧が振り下ろされた。
ゼロ距離でヒメミが盾でガードするが、俺のところまで飛ばされて激突した。
「すみません、マスター!」
「大丈夫だ、ダメージはない」
パーフェクトディフェンスのおかげで、俺のダメージはなかった。
しかし、六十パーセントほどまで回復していたヒメミのHPが四十パーセントを切ってしまった。
ドン――。
ヒメミから距離を取るためにミノタウルスは、後ろに跳んで、斧を振り上げた。
「挑発!」
そこをたもつさんが挑発で、自分のほうに振り向かせる。
――ギューン、ズザー!
ミノタウルスは、振り上げた斧をたもつさんに向けて振り下ろす。
ガシッ!
それを、たもつさんの前に立つ、XANAウルトラマンがガードした。
XANAウルトラマンのHPが二十パーセントを切った。
ヤバい、もう一発きたら、今度はたもつさんがやられる。
「パーフェクトディフェンス、魅了!」
自身にパーフェクトディフェンスをもう一度かけ、魅了を発動する。
斧を振り上げかけたミノタウルスが、ゆっくりとこちらに向きを変える。
俺には、もう一度使えるマナはない。
オートマナリチャージ一回分がいいところだ。
ガシッ――、ガシッ――、ガシッ――。
魅了中のミノタウルスに、ヒメミが斬撃を加え少しづつHPを削っていく。
背後からXANAウルトラマンの攻撃も続く。
残りHPが二十パーセント近くになっている、もうちょいだ!
ドン――。
だが、あともう少しで二十パーセントを切るというところでミノタウルスは正気に返る。
――ギューン、ズザー!
ドスン――。
再びヒメミが後ろに飛ばされたが、そこは俺も学習していて、真後ろにはいなかった。
しかし、奴の衝撃波は九十度の範囲だ。
貴重なパーフェクトディフェンスを消費してしまった。
バカか俺は、奴の右横に回っておくべきだった……。
ミノタウルスは俺の方に角度を変えて、斧を振り上げる。
「こっちよ、ウスノロ! 挑発!」
ミノタウルスは、再びヒメミの方に向きを変える。
「マスター、衝撃波の範囲外へ!」
「すまん、そうする。もうマナがない」
「はい、分かっています」
――ギューン。
「ノックバック――」
バシッ――!
ミノタウルスの斬撃に合わせるように、ヒメミがスキルを発動した。
「ナイス、ヒメミ!」
ダメージは受けたが、ヒメミのノックバックのタイミングが見事だったのだ。
ミノタウルスの斬撃の衝撃波は広がらずに、ヒメミは後ろに飛ばされず、逆にミノタウルスが若干後ろに滑った。
だが、ヒメミのHPは残り二十五パーセントだ。
パラディンのパッシブスキル、自動回復でなんとか保っているが、あと二撃耐えられるかどうかだ。
「チェンジ、アースジェネシス」
たもつさんが、出してあったウォータージェネシスを交換した。
そうか、残り少ないHPのウルトラマンを交換するんだな。
「サモン、ウラン――」
「えっ、ウラン!」
「バーストアタック!」
――ガツン!
XANAウランがミノタウルスに体当たりした。
ミノタウルスのHPが残り十パーセントほどになった。
――グガガガァー。
ミノタウルスは突然雄叫びを上げると、両足を四股を踏むように開いた。
「全員防御、何か仕掛けてきます! マスター、私の後ろに――!」
ヒメミの警告で、俺はその背後に走る。
ビュン――!
――ザッー!
「くっ――!」
ミノタウルスは、斧を床と並行にして、身体を一回転させ、全方位に衝撃波を放った。
ドガッ!
俺はヒメミの背後に入る前に、吹っ飛ばされ壁に激突した。
そのダメージは大きく、HPが十パーセントを切った。
「あとは頼む――」
たもつさんのHPゲージは、あっという間にゼロまで低下し、パッと白く光り、身体が消える。
マミは直撃を受けて、センちゃんと共に壁に激突した。
壁際に座っていたミサキは、HPを削られたものの、なんとか耐え凌いだ。
「マミ! マスターにヒール――!」
ヒメミが叫ぶが、マミの反応は無い。吹っ飛ばされてスタミナも失ったのだ。
「マスター、ファイヤージェネシスを!」
ミサキが弓を引き、ジェネシスを要求する。
もう、それしかない。
「挑発! マスター、今です」
ヒメミが挑発でミノタウルスの敵意を引いた。
俺は、ミサキの前にジェネシスを出せる範囲までなんとか移動する。
「セット、ファイヤージェネシス――」
「スキル、一斉射――!」
(著作:Jiraiya/ 編集:オーブ&maru)