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目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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「月間メタバースマガジンの若木です。本日は取材を受けていただいてありがとうございます」

取材とは形ばかりで、情報収集のため、ジャッキーさんは記者として挨拶した。

実際に月間メタバースマガジンはギルマスが発行している月刊誌で、ジャッキーさんはその記者という触れ込みだ。

「開発責任者の網代です。こちらこそ、取材していただきありがとうございます。いい宣伝になります」

「本日は、二名同行させていただきました」

ジャッキーさんが連れを紹介した。

「インタビュアーの林です、よろしくお願いします」

今回、インタビュアー役になったのはリアムンさんだ。

「カメラマンの磨戸です、よろしくお願いいたします」

カメラマン役のマコさんが挨拶した。

――中略。

「オブロのオープン日が延期になったとお伺いしましたが?」

「はい、オブロの仕様が少し変更になりました。その過程で少し不具合が出てしまいました」

「どのぐらい延期になったのですか?」

「えっと、最短で二週間ほど、最長で一ヶ月です」

「そうですか」

「ただその分、よりリアルな、今までに無い体験をしていただけると思います」

「なるほど、とても楽しみですね。私もXANAメタバースユーザーなので」

「そうでしたか、それは突然の延期で、申し訳ないことをいたしました」

「あのぉ、私からも少しよろしいでしょうか?」

「あっ、はい、若木さん、どうぞ」

「実は私、御社の親会社であるリアルデビルズに、プロジェクトの取材で行かせていただいたことがありまして」

「なるほど、そうでしたか」

「えっと、確かアストロヒューマンプランでしたか?」

「ああ、はい……」

「アダムという凄いマザーAIのメタバースを、体感したことがあるのです」

「ああ、アダムの……」

「えーっと、その時に開発者だった方、確か……」

「私覚えてる、天風さん? ですよね」

リアムンさんが、打合せ通りに口を挟んだ。

「おっ、さすが林くん、そうだ、そうだ、天風さんだ」

「うん。あの人、天才でしたよね」

「ああ、天風ですね……はい」

「そう、その天風さんが開発したアダムが、こちらのオブロのマザーAIとしても使われているとか」

「えっ、ええ、まあ、元になっているのは確かですが、同じ物ではないんですよ……」

「でっ、その天風さんは今どちらに?」

「えっ、えっと、申し訳ありません。私は天風のことは、よく知らないので……」

「今は本社にいらっしゃらないようでしたので、こちらにいらっしゃるかと思ったのですが?」

「あっ、いえ、何度か出張には来たことがあるとは思いますが……。ただ私が責任者になる前のことですので、分かりかねます」

「あのマザーは、天風さんしか創り出せない異次元の産物と聞いていたので、こちらにいらっしゃるものとばかり思っていました」

「いえ、オブロのマザーのイブは、アダムとはまた別のものなので」

「ほー、そうなんですね。さすが御社は人材が豊富でいらっしゃる」

「ですよねー、あの天才に匹敵するような人が、ほかにもいらっしゃるってことですよね」

再びリアムンさんが、口を挟んだ。

もちろんこれも、打合せ通りだ。

マコさんは、発言せず黙って写真を撮りまくっていた。

実際は、音声動画を撮ることが目的だ。

「いえ、まあ、はい。あの、そろそろよろしいでしょうか。オープンまで、まだやらなければならないことが沢山ありまして……このへんで」

――取材終了数時間後。

「ちょっと私、嫌味っぽかったかな……」

リアムンさんが、ジャッキーさんに申し訳なさそうに言った。

「いえ、あのくらい大丈夫かと思います。で、リアムンさんはどう思いました?」

「私の調べでは、天風って人は本物の天才なんだよね。だから、普通ならイブにも関わっているはず」

「そうですよね。では、やはり何か隠していると……」

「うん、たぶんね。ジャッキーしゃんはどう思った?」

「そうですね。不自然なくらい天風って人の話は、避けようとしてた感じでしたね」

「だよねー。まあ隠密部隊が戻ってきたら分かるだろうけど」

「ですね。で、リアムン部隊長さん、マッシュルームさんとトリシメジさんの潜入は今夜なの?」

「その部隊長って呼び方やめれ~、ただのお飾りなんだから。うん今夜だよ、たぶん。知らんけど」

「ははっ……じゃあ、明日朝一で報告を聞くことにしましょう」

「はいな、ジャッキーしゃん」

――翌朝のユニオン情報収集担当会議。

「おはようございます、お待たせしました」

二人の隠密担当が、ジャッキーさん、リアムンさんの待つ会合場所に現れた。

「おはよう、マッシュたん、トリシメたん」

「おはようございマッシュ、リアムン隊長」

「おはようございまシメジ、リアムン隊長」

「おつかれさま。首尾はどうでしたか?」

ジャッキーさんが、情報収集の成果を尋ねた。

「バッチリでマッシュ! ジャッキーさん」

「私の方は、そこそこシメジ」

「じゃあ、まずはイブの開発会社の方の調査結果、お願いします」

「はい、ジャッキーさん。担当は私シメジ」

「了解です、お願いします」

トリシメジさんは、三台のスマホを用意した。

XANAのARアプリを、さらに疑似3Dフォログラム化して、AI秘書を壁に映し出すためだ。

実はAI秘書を映し出す必要は全く無いのだが、それが彼のこだわりなのだ。

「じゃあ、いつものように、キノンにお願いするシメジ」

「はい、マスター。ではみなさん、キノンが説明させていただきますキノコ」

AI秘書のキノンが話しだした。

「相変わらずキノンたん可愛い~、らぶらぶ」

リアムンさんは、以前からキノンが気に入っている。

「むふっ、ありがとうございまーす、リアムンちゃん。この前は可愛い服を作ってくれてありがとキノコ」

「ううん、次はね、ウェディングドレス作ってあげるね~」

「わーい、やったキノコ~」

「ちょっと、やめてくださいリアムン隊長、キノンはお嫁になんて出しませんから!」

トリシメジさんは結構本気で心配している。

「もう、マスターったら~。キノンはずっとマスターと一緒だから、心配しないでキノコ~」

二人はとても熱々な恋人のようだった。

「あの……すみません、時間がないので……」

ジャッキーさんが、脱線しないように一言入れた。

「ごめんなさい、ジャッキーさん。それじゃ始めますキノコ」

「すみまシメジ……」

「えっとー、昨夜、労務関係の資料を調べてきたんですが、先月まで天風好一<あまかぜこういち>という出勤簿が存在しましたキノコ」

「つまり先月までは、こっちにいたってことだね。やはり何か隠したいことがあるのか……」

「はい、ジャッキーさん。それで、開発室にあった日報を調べてみたんですが、ひと月前に『チーフと連絡が取れなくなった』という記述がありましたキノコ」

「チーフっていうのは、その天風って人だよね?」

「はい、リアムン隊長。天風さんは、開発チームのリーダーで、チーム内ではチーフと呼ばれていたようですキノコ」

「あっ、業務報告しているときも、別にリアムンでいいからね。キノンたん」

「はい、リアムン隊長」

「だから……」

「まあそこはいいから、先にいきましょう。で、それは天風本人の意思で、連絡が取れない状態になったのかな……それとも」

ジャッキーさんが、また脱線しないように進行を促した。

「はい、日報の内容からすると、ハードウォレットを持ち出した可能性があるので、本人の意思の可能性は高いキノコ」

「でも、強要されたという可能性も……ゼロではないってことだねキノンたん」

リアムンさんが推測する。

「はい、リアムンちゃん、ゼロではないと思います。ただ、辞表が代行会社から出されていて……それが本人の意思なのかは分かりませんキノコ」

「オブロ開発チームは、なぜ天風さんの存在を隠したいのかなあ……」

ジャッキーさんが疑問点を口にする。

「ジャッキーさん、それは親会社の方を調べる必要があるのではないかと思いますキノコ」

「たしかに、こっちの会社が隠したいというより、親会社の意向なのかもね……」

ジャッキーさんは、オブロ開発会社より、リアルデビルズ社の介入を疑っている。

「ジャッキーさん、でもさ、でもさ、彼は何をしようとしているのかな? そこが分かんないんだよね。まあ親しいわけじゃ無いから、彼の人となりなんて知らんけど」

取材時の会話は全部作り話で、取材自体も偽物だから、実際にリアムンが天風に会ったことはない。

情報として、彼が如何に天才的なAIを開発したのか、ということを知っているだけだ。

「そっちは、俺が調べてきたアストロチャイルドの情報が役に立つかなマッシュ」

アストロチャイルドの情報収集はマッシュルームさんが担当していた。

「じゃあ、マッシュルームさん、アストロチャイルドプロジェクトの調査結果をお願いします」

ジャッキーさんが話題を切り替える。

「もっと、みんなとお話ししたかったキノコ……」

「ああ、キノンちゃん、ごめん。ほかに何か報告はある? なくてもそのままココにいてもいいよ」

「ううん、ジャッキーさん、ないから進めてください。ここにいるキノコ~」

「うん、じゃあ……マッシュルームさん、お願いします」

「では、えっと……、まず、アストロチャイルドプロジェクトっていうのは、事故や病気、先天的障碍で、身体機能が麻痺した人たちなどのための、回復プロジェクトでマッシュ」

マッシュルームさんが、集めた情報を話しだした。

「障碍のある人には神プロジェクトだよねん。それ、わんにゃんたちには……あっ、ごめんなさい。また脱線してもうた」

リアムンさんは、犬猫の保護活動がライフワークだ。

「ほんとそうですね。iPS細胞を使って、脊髄の神経細胞などを再生させる方法は、まだ成功確率が高くないらしいマッシュ。でも、メタバースを利用して疑似体験で身体が動いているという錯覚を与えると、再生する確率も、回復速度も、何十倍にもなるというプロジェクトなんでマッシュ」

「おおー、メタバースにそんな使い方が……」

ジャッキーさんは、メタバースの活用方法にいたく感心した。

「もちろん、よりリアルでないと脳も身体も欺せないので、天風って人の超リアルメタバースがあってこそでマッシュ」

「なんか思っていた以上に天才かも、天風さんて。知らんけど」

リアムンさんも、天風により興味を抱いたようだ。

「でも彼は、このプロジェクトの進め方で会社の方針に異を唱え、左遷されたとの噂があるマッシュ」

「そういうことか……それで恨みを持って、今回の事件を起こしたってことかな……」

ジャッキーさんが事件の動機を推測した。

「うーん、それって、よくありそうな話だよね……でもさ、でもさ……」

リアムンさんは、その推測に疑問を感じた。

「うん?」

「彼って、頭良いでしょ? 天才だよね」

「うん」

「それにさ、障碍のある人に希望を与えるような、凄い開発してるじゃん?」

「うん、そうだね」

「そんな人がさ、左遷されたぐらいでさ」

「うん」

「他の人を傷つけるような、今回のようなことなんてさ」

「うん、しなそうだよね」

ジャッキーさんも、そこは同意した。

「たしかにそうマッシュ」

「でしょでしょ」

「うん」

「最初からその目的で開発していたとは限らないけどさ。崇高な目的を持っている人が、ただの逆恨みでって考えにくいから」

「うん、リアムンさんの言うことはよく分かる。僕も単純な逆恨みの事件ではない気がするね」

「そうマッシュね……」

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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