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目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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「扉がない……」

予想外の展開だ。

もう逃げ出すこともできなくなったのか……。

「カエデ、ちゃんと探したの? 場所が変わったとか、隠されたとか……」

「ミサキちゃん、そないな。うちが見逃すことなんて、ありえへんどす」

「きっと隠されたのね」

ヒメミが言った。

「そうだな、カエデが入り口を見逃すなんてあり得ない。無くなったということだな」

ちょうどいい、これで逃げることはできなくなった。

もう覚悟を決めて進むしかない。

これで俺は『卑怯者』というレッテルは貼られずに済むって訳だ。

どうせ……俺は今まで善行をしてこなかった人間だ。

人はいつかは死ぬ、同じ死ぬなら、マミ……いや、ヒカリちゃんのために命をなげうった男として記憶されるのもいい。

待て、全滅したら誰が伝えてくれるんだ?

まあいいさ、それも、かっこいいだろう……。

「殿?」

「……殿?」

「あっ、何だ忠臣君……」

「殿、お加減でもお悪いでござるか?」

「いや、ごめん、大丈夫だ。ちょっと考え事をしていただけだ」

「忠臣君、マスターは戦略を思案していただけだと思いますよ」

「あぁ、これは拙者としたことが、さすがヒメミ殿でござる。殿、ご思案中の所、失礼申したでござる」

「いや、いいんだ……」

せめて名誉でも残せれば、なんてくだらないこと考えていたなんて言えない……。

「それで、なんだ?」

「殿にご注進申し上げたきことがござる」

「よろしい、申してみよ」

「では、申し上げるでござる。拙者、俊歩と居合い、というスキルを取得したでござる。これを使えば、黒ペンギンの射撃間隔を縫って倒すことが可能でござる」

「しゅんぽ? 居合い? 居合いとは、即座に刀を抜いて切るってイメージだが……しゅんぽとは?」

「殿、やってみるでござる」

「うん、そうしてくれ」

「では、いくでござる」

忠臣君は、左手で腰刺しの打刀の鞘を抑え、右手でその柄を握り、右足を踏み出した体勢をとる。

「俊歩――」

サッ――。

次の瞬間、五メートル以上先に移動していた。

「居合い」

――シュッ。

ササッ――。

刀を抜いたかに見えたが、次の瞬間には既に鞘に収まっていて、さらに横に五メートル移動していた。

「うわっ、うち、見えへんかった」

中距離移動なら最速のカエデでも、驚くほど素早い短距離移動だったようだ。

「凄いです、忠臣君。カエデより速いかも」

ミサキが余計なひとことを言ったので、カエデがちょっとむくれる。

「すご-い、忠臣君、かっこいい!」

マミは目をキラキラさせて、尊敬のまなざしを向ける。

「マスター、これは使えそうですね。カエデが注意を引きつけて、忠臣君が斬るという戦術が使えそうです」

「なるほど……あとは、その居合いの攻撃力だな。一撃で倒せるのだろうか……」

「殿、攻撃力の数値は、ミサキ殿のダブルショットの八十五パーセントでござる」

「そうか、微妙な数字だな。一度試してみる必要があるな」

「ですね」

「よし、ではカエデを先頭に一列縦隊。十二時方向の建物の屋上まで移動する。ここからは、必要なこと以外はアイコンタクトで。どこに黒ペンギンがいるか分からないからな」

全員黙ってうなずく。

ステルス化したカエデを先頭に外階段を下りる。

六時方向にある階段を下りてから、建物の十二時方向に回り込む。

小さな道路を挟んで、隣の建物がある。

カエデが手で制して隊列を止めた。

『偵察してくるので待て』の合図を出した。

外階段が見当たらないので、カエデは建物の周囲を回って戻ってくる。

「マスター、建物の十二時方向に外階段がありますが、近くに黒ペンギンがいます」

「分かった。三時方向から回り込む。その十二時方向の黒ペンギンは、カエデと忠臣君で倒してくれ」

カエデと忠信君がうなずいて、先行する。

その少し後を、俺を最後尾にして建物の三時方向に移動する。

三時方向の壁から建物の十二時方向を覗くと、黒ペンギンがこちらを背に歩いている。

カエデはその脇を抜けて、黒ペンギンの前に回り込んだ。

前方数メートルに近づいても、ステルスを看破される気配はない。

忠信君は、黒ペンギンの後方から忍び寄る。

カエデは一瞬ステルスを解除し、クナイを投げつけ、すぐにステルス状態に戻る。

黒ペンギンが口を大きく開けようとしたところに、背後から忠臣君が迫る。

ザクッ!

黒ペンギンが気づき、後ろを振り返ろうとした時には、忠信君が斬りつけていた。

鞘から抜いた刀で斬り上げたかに見えた次の瞬間、既に鞘に収まっていた。

黒ペンギンは、たすき掛け状に斬られたあと、粉々になって空気中の塵と化し消えていく。

「よしっ!」

小声でガッツポーズした。

これで、ミサキと忠信君で倒していける算段がつく。

「殿、二度斬撃する必要があったでござる」

「えっ、今二度斬ったのか?」

「斬り上げただけでは、十パーセントほどHPが残ってしまい、斬り下ろしたでござる」

「そうだったのか。問題ない、見えないぐらい早かったからな」

「はい、見えなかったです。一回斬っただけかと思いました」

ヒメミも見えなかったらしい。

「私もです。斬り下ろしたのは気づかなかった。凄いね忠信君、速すぎ」

「殿のみならず皆様にまで褒められると、拙者照れるでござるよ」

珍しく忠信君が顔を赤くして照れた。

「マスター、カエデが呼んでます」

ヒメミがカエデの手招きに気づいた。

屋上からこちらを覗いて、手招きしている。

既に屋上まで上がって、確認したようだ。

 

《オブロ開発会社、第二研究棟》

「チーフ、またプレイヤーが侵入したようです」

「また? くそっ、鬱陶しい! なぜ扉をロックしない」

「入り口の扉は、まだイブの支配下にあります。ただ侵入者は出られなくなります」

「地下第五階層を落としたいのに、後ろから来るやつがいると、こっちが挟撃されるじゃないか。これじゃどっちが攻めているのか分からない、何とかしろ!」

「警らペンギンたちが簡単にやられてしまっています。アタッカーペンギンたちが必要です」

「アヒルのところに送ったのはどうした」

「包囲しています。ですが、まだしぶとくて……」

「半分、いや、三分の二を新しい侵入者に送れ、こっちは天風で手一杯なんだよ」

「分かりました。アタッカーペンギンたちを送ります」

 

《オブロ地下第四階層》

三階建ての建物の屋上に出ると、一部天井が抜けて、三階の部屋が覗けた。

落ちないようにカエデが注意を促す。

屋上の塀越しに見渡すと、五体ほどの黒ペンギンが徘徊しているのが見えた。

ほぼ等間隔で散らばっているので、気づかれずに一体ずつ倒すのは難しそうだ。

この配置はもしかすると、警備しているのでは?

ということは……。

「マスター、九時方向の中央の建物に行くほど、黒ペンギンが増えていますね」

ヒメミも同じことを思っていたようだ。

入り口方向を六時として、俺たちは、十二時方向を出口と見込んで進もうとしているが、狙うべきは中央の建物かもしれない。

「そうだな、あそこがこの階層の中心のように見えるな」

「どうしますか?」

「うーん」

十二時方向に目を凝らすと、少し右側にぼんやりとだが、扉のようなものが見える。

「ミサキ、一時方向に出口らしき扉はあるか?」

ミサキは射撃用のスコープスキルがある。

遠くの目標をスコープのように拡大して見ることができる。

ミサキは、黒ペンギンたちに見つからないように、注意しながら塀越しに一時方向を観察した。

観察を終えると、そばまで来て顔を近づけた。

おそらく小声で話すため……だと思う。

「はいマスター、おそらくあれは扉ですね」

「だとすると迷うな……中央を落とさなくても、あそこから五階層に降りることができるのなら、それを優先させたい」

「分かりましたマスター、では、まず十二時方向を目指しましょう」

今度はヒメミが顔を近づけてきて、耳元で言った。

「二人とも……そんなに近づかなくても聞こえるから……」

「マスター、さっきから観察してると、黒ペンギンたち、どうも徘徊ルートが決まってるような動きどす」

「えっ、そうなのか?」

「私、ルート見つけてきまひょか? なるたけ黒ペンギンに会わへんルート」

「なるほど! それいいなカエデ、頼む!」

「そやけど、こら、もうムギューだけでは済まへんさかいね、マスター」

「ハグ以上って……」

それなんだよ、ちょっと想像して顔が赤くなる。

「マスター、ちょっとエッチな想像してませんか?」

ミサキが睨む。

「カエデ、もうくだらないこと言ってないで、さっさと行きなさい」

ヒメミもちょっと不機嫌そうだ。

「ほな、約束どすえ。マスター」

「約束してないぞ――」

言い終わる前にカエデの姿は消えていた。

「まったく、あの子はすぐマスターに見返り求めるんだから!」

珍しくヒメミが愚痴をこぼす。

「ほんとですよ、ヒメミちゃん」

「ねーねー、パパぁ」

「……なんだマミ」

どうもパパと呼ばれても、まだ反応しにくい。

「それ以上ってなあに? ムギューより楽しいの?」

「あっ、えっと……なんだろうね」

「マミっち、それはキ……」

「ミサキ、余計なこと言わない。マミには早いわ」

いや、その言おうとした答えは当たっているのか……。

「はーい、ごめんなさいヒメミちゃん」

「ねぇ、パパぁ」

「いや、マミが大人になったらきっと分かるよ」

うん、これがきっとパパとして正しい回答だ。

「あれなあに?」

マミが天井を指さした。

天井といっても、青く色付けされていて、空のようにも見えるもので、高さは分からない。

「ん? なんだ……」

何かがフワフワと浮いていた。

「ドローンだ! 全員伏せろ。ミサキ撃ち落とせ!」

「はい!」

ビュ――。

ミサキは即座に反応し、ドローンらしき浮遊物体を矢で撃った。

見事に命中し、その浮遊物は屋上に落下する前に塵となった。

「まずいな、空から監視されていたとしたらヤバいぞ!」

「殿、あれを! 赤い隊列がこちらへ向かってきます」

忠臣君の示す方向を見ると、一番大きな通りを、こちらへ向かってくる赤い固まりが見えた。

大きさも徘徊しているペンギンたちと比べて小ぶりで、歩く速度もかなり速い。

「マスター、赤ペンギンは移動速度は倍ぐらい、大きさは半分ぐらいです」

ミサキがスキルで確認した。

ミサキには遠距離を狙撃するためのスコープスキルがある。

「全員防御態勢。階段から上がってくることを想定して防御する。ただし、飛べるかも知れないので注意」

「マスター、カエデはどうしますか? たぶん、カエデの位置からは見えていないです」

ヒメミはカエデの姿を追っていたようだ。

「呼びに行く……のは間に合わなそうだな。カエデならなんとかするだろう」

「はい、そうですね」

「ミサキ、数と距離は分かるか?」

「最前列までおよそ百二十メートル、五十体以上いると思います」

「もし射程が届くなら、少しでも数を減らしてくれ」

「分かりました。既に射程圏内です」

「ヒメミは、ミサキを防御しろ」

「はい」

ヒメミが立ち上がり、盾をかまえる。

その背後にミサキが立ち、弓を引いた。

――パン!パン!パン!

――パン!パン!

ビュ!

矢を放った瞬間にミサキがよろけながらしゃがんだ。

それを確認してヒメミもしゃがみ込む。

ミサキが矢を放つ直前に、五体の徘徊している黒ペンギンから射撃された。

その一発がミサキに当たったのだ。

既に黒ペンギンたちにも、さっきのドローンの情報が届いているのだろう。

「大丈夫か、ミサキ……ヒメミも……」

「はい、一発もらっただけです」

「ごめんミサキ、盾の範囲だけでは防げなくて」

見ると、ミサキもヒメミも腕に貫通した穴が空いていた。

HPはほとんど減ってはいない。

「赤ペンギン、二体消失したでござる」

「二体! ダブルショットで二体狙ったのか?」

「はいマスター、試しにやってみましたが成功したみたいですね」

「一体を一発で倒せるなら効率いいな。黒ペンギンより防御力は低いって事だな」

「もう一度やります、矢はあと四十八本です」

「頼む、ミサキ、ヒメミ」

一瞬、先に黒ペンギンをとも考えたが……。

すぐ再生する黒ペンギンを五体、再生は一度として延べ十体。

一体に二本矢を使うとすると、二十本消費になる。

それを考えると効率が悪すぎる。

「はい、マスター」

ミサキが次のダブルショットのための矢を用意する。

「行くわよ、ミサキ!」

「いつでもどうぞ――」

――パン!パン!パン!パン!パン!

今度は黒ペンギンたちが、あらかじめ狙いを定めていたらしく、ヒメミが立ち上がると同時に撃ってきた。

ビュ!

「命中、赤ペンギン二体消滅したでござる」

今度はヒメミが全弾を受けた。

盾を貫通している弾もある。

身体には二つ穴が増えている。

このままヒメミを盾にしていいのか不安になる。

赤ペンギンを十二体ほどを葬った時には、屋上から十五メートルほどの距離に迫っていた。

飛んできそうな気配はない。

やはり外階段から上がってくるのか……。

黒ペンギンの方は特定の場所を巡回しているだけだ。

この建物に近づいてくる気配はない。

目標を捉えたら撃ち込んでくるだけのようだ。

黒ペンギンは狙撃タイプとすると、赤ペンギンは近接攻撃タイプか……。

戦術を変える必要がありそうだ。

「ヒメミ、大丈夫か?」

「はい。損傷率は十五パーセントです、問題ありません」

HPは回復できるから問題ないが、データ領域の損傷は心配だ。

俺はどうしても、ヒメミを失いたくはない。

もはやヒメミは俺にとって、なくてはならない存在なんだ。

「戦術を変える。建物の下に来た赤ペンギンを迎え撃つことにする」

「黒ペンギンはどうしますか?」

ミサキが質問する。

「黒ペンギンはとりあえず放置だ。射線が通らない中央寄りに移動だ。ただし穴に落ちないように。ヒメミは階段付近に」

「はい、マスター。階段口で防衛します」

ヒメミは屋上につながる階段の前、一時方向に身構えた。

「マミ、四時方向の塀際に待避」

「はい、パパ」

マミはすぐ言われた通りに、四時方向の塀の角にセンちゃんと移動する。

「マミ、何か役立ちそうな攻撃スキルはあるかな?」

クレリックのマミに攻撃スキルは無いとは分かりつつも聞いてみる。

「うんと……スリープっていうのが使えるようになってる」

「眠らせるスキルかな?」

「うん、成功率五十パーセント、耐性がある場合は十五パーセントだって」

それ、結構使えそうだな……。

「分かった。赤ペンギンがここに上がってきた時に、チャンスがあれば使ってみてくれ」

「はい、パパ」

「忠臣君は、ヒメミの背後から回り込んで、上がってくるやつを攻撃」

「御意――」

「ミサキは俺と一緒に、一時方向の塀際に移動、階段を上ってくるやつを攻撃」

「はい、マスター」

「いいか、みんな黒ペンギンの射線に入らないように、くれぐれも注意だ。不必要に立つな、なるべく身を屈めておくように」

赤ペンギンの先頭が建物の壁際に到達した。

下を覗き込むと、それに気づいた数十体が頭をこちらに向け口を開いた。

――やばい!

俺は慌てて身を隠す。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

マシンガンのように一体につき五、六発の弾丸が連続して発射された。

集団で撃ち始めると凄い数になる。

バリバリバリ、と屋上の塀にめり込む。

「ダメだ、こいつら連射してくる!」

まずいぞ、こんな奴らが屋上まで上がってきたら、ひとたまりもない。

「マスター、私が盾になりますから、その間に攻撃してください」

「いや、これだけ連射されたら、ヒメミだってもたないぞ」

「マスター、真上に散弾モードで火炎弾を撃ってみるのはどうでしょうか?」

ミサキが空を見上げながら言った。

「散弾……そうか、ここの天井が高ければ、角度をつけて打って階段付近に落下させられる可能性があるな」

「それ素晴らしいアイディアね、ミサキ」

「えっへん、さすが私。じゃあ皆さん、階段付近の塀際から離れてください。散弾なのでどこに降ってくるか分かりませんよ」

全員がマミの方に退避する。

「では、撃ちます! 火炎弾、散弾モード!」

ビュ――。

ミサキがほぼ真上に弓を構えて、空に向けて矢を放った。

空に溶けて、ほとんど見えなくなる。

まさか天井に刺さってるってことは……ないよな。

「落ちてこないでござるな……」

「大丈夫、そろそろ落ちてきます」

ミサキには見えているようだ。

「来ます、伏せてください!」

パラパラパラパラ――。

雨が降るような音を立てて、火の粉が落ちてきた。

十二時方向の屋上の塀越しに落ちていく。

屋上に落ちたものもあったが、ほんの僅かだ。

「よし、いいぞ! ヒメミ、ミサキ、行くぞ」

狙い通り、階段付近に集まってきた赤ペンギンたちに落ちたように見える。

「私が覗きます」

俺を制して、ミサキが下を覗き込む。

「倒せてはいませんが、動きが止まっています。チャンスです!」

「幻惑――!」

「ダブルショット!」

俺は、取得したばかりのスキル幻惑を発動する。

続いてミサキが弓を射る。

右往左往している赤ペンギンたちは反撃する前に、幻惑に陥る。

ミサキのダブルショットは階段を上がろうとしていた赤ペンギン二体を屠った。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

バンバンバン、バンバンバン――。

幻惑にかかった四、五体の赤ペンギンたちが、見境なく射撃し始めた。

「うっ、くらった――」

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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