「えっと、それじゃこれからすることだが、まずは情報収集したいと思う」
「すみませんマスター、通信の異常については、ずっとマザーⅡ(第二世代AIマザー)に問い合わせているのですが、全く返事が来ません。繋がってはいるようなのですが……」
「ミサキもそうです、マスター」
「うちもそうどす」
「拙者もでござる」
「――マミ、あなたはどうなの?」
「えっ……」
マミはヒメミの声に、俺の右腕でぷるっと震えた。
「おっ、おんなじ……かな」
「なに? 聞こえへんで。あんたいつもマスターに甘えてばっかりで、全然役にたってへんで。最新の第三世代AIなんやろ、少しは……」
マミの瞳に涙が浮かんだように見えた、さすが第三世代AI……泣くこともできるのか……。
「まっ、まあ、マミはまだ来て三ヶ月だし、設定も小学生みたいだから(――知らんけど)。許してやってくれ」
「なんかさ、マスターってマミには甘いですよね。さっきは、ミサキにかわ――」
「よしそれじゃー」
なんか更に揉めそうなので、俺はミサキの声を遮った。
「実は、先ほど確認したら、ギルドユニオンのメンバーが何人かインしているようなんだ。通信もマップ表示もでないから、直接行くしかないんだが、とりあえず、ザナリアン初期メンバーなら何か分かるかも知れない……」
「なるほど、そうですね。では、探しに行きましょうマスター」
ヒメミがいうとAIたちも頷いた。
「よし、まずはヤキスギさんを探そうと思う。ただ、彼のランドは俺の四倍はあって時間がかかりそうだから、手分けして探したいと思う。みんな協力して欲しい」
「はいマスター全力で」
「もちろんですマスター」
「任せとぉくれやすマスター」
「殿、ただ命じていただくだけで、よいでござる」
「マミも行く!」
どうやら今度はマミも声を張り上げたので、みんなにも聞こえた。
「じゃあ、俺はスケボーで行く。みんなほどスタミナないからな」
ダッシュするとスタミナのインジケーターが、すぐになくなってしまうのだ。
AIたちは、普段デュエルで戦うことで、レベルが上がりスタミナが多い。
ダッシュしてもかなり長く走り続けられる。
ずっとぐだぐだして、動画観たり、おしゃべりしてたりするだけの俺は、ほとんど初期ステータスのままだ。
「俺は、パッションソルトさんの店に寄って、ブースターオムライスを買っていくから、お前たちは先に、ヤキスギさんのランドに行ってくれ。現地集合ということで。それと、スタミナブースターフードやドリンクは、各自好きな物を好きなだけ買っても構わない。ジュエルはいくらでも使っていいぞ」
「ありがとうございます、マスター」
「やったー、私、苺ショートとパンケーキと……」
「ミサキあんた、無駄遣いしないでよね」
「はーい」
「うちはたこ焼き三十個買うていくわ」
「では拙者は、団子を十櫛頂戴つかまつるでござる」
全員がいなくなったあと、俺は壁に飾ってあったスケボーを左手に抱え、手持ちマネーを確認した。
三万ジュエルはあったので、問題ないと判断し、ウォレットからは引き出さなかった。
「マスター、ヒメミです。少しよろしいでしょうか?」
ドアの向こうで、ヒメミの声がした。
「おお、なんだ入れ」
ドアが開くと、顎を引き下から見上げる鋭い目線を送るヒメミが立っていたので、ぎくりとした。
「どっ……どおし……」
言い終わらないうちに、ズカズカと音をたてるかのように、大股で一直線に俺に向かってきた。
俺はたじろいで、壁際に追い込まれた。
「――マスター!」
その声は怒りに満ちていた。
「――マスター!」
「はっ、はいなんでしょう……?」
――ドン!
――ドン!
右手、そして左手を壁に叩きつけるように、俺の顔をはさんだ。
これが、うわさの両手壁ドン……。
好きな男子に女子がやられたいやつじゃん――!
「マスター! あれは一体何の真似ですか! 私という正妻がありながら、あの態度は何なんです!」
せっ、正妻……いつから……。
「ミサキとマミにくっつかれて、鼻の下伸ばして、ずいぶんとご機嫌でしたよね!」
「あっいや、あれは、別に、あの子たちが、強引にくっついて……」
「――なにあの子たちのせいにしているんですか! 喜んでたくせに、私なんか、そんなことさせてもらったことないのに――おかしいわ! さっさと払いのけたらいいじゃないですか!」
「いや、そんな乱暴なことは……危ないし、痛いと可哀想だし……」
「バカ言わないでください、日々デュエルしているあの子たちが、そんなにか弱いもんですか! マスターなんかよりずっと強いですよね、――あの子たちは! そんなことマスターだったら知ってますよね!」
「はっ、はい確かに、そっ、そうです……」
しまった……これ、リアルだとさすがに強烈だなあ……。
少しはデレ要素入れとくんだったな。
プライド=マックス、嫉妬性=マックス、ツンデレ比重=百対零、にしたんだよな、俺……。
いやMなんだけどさ、嬉しい反面怖いぞこれ、怖すぎる……じゃんこれ。
「いいですか、少なくとも二度とあんなデレデレを私の前でやらないでください。いいですねマスター!」
「はっ、はい……ヒメちゃん」
(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)