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目覚めてみたら、XANAマスターになっていた件

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「おおー、よいたろうさん、無事でしたか―」

ギルドの会議室に入ると、三人の仲間が迎えてくれた。

そこに居たのは、椅子に腰掛けたギルマスのジショさんと、XANAメタバースでフリースクールを運営しているチックタックさん。

そして、AIの胸元に頭だけ抱えられている、ぺんちょさんだった。

俺は頭だけのぺんちょさんに最初ぎくりとしたが、突っ込みは忘れない。

「ぺんちょさん、なんか幸せそうですね」

巨乳AI彼女に抱えられていたのだ。

「んなわけあるかい――ぺん」

そこで全員大笑いする。

「――ネタですよねそれ?」

「ヤメテ―!」

「あはは、ぺんちょさんは、ちょうどログアウト中にロックされたみたいで、頭だけ残ったんだ」

ギルマスのジショさんが続ける。

「でもそのおかげで、ぺんちょさんだけが、リアルに存在しながら、XANAの僕らとも繋がっていられるんだ」

「おおーそうなんですね、じゃあ、やはり俺たちXANAの中に閉じ込められているってことなんですね!」

「うん、思考というか、意識だけXANAにロックされてリアルに戻れない状態だと思う」

「よかったー、俺、死んで転生したのかと思いましたよ」

「よいたろうさん、ラノベの読みすぎ――」

ヤキスギさんがそう言って笑う。

「まあ、とにかく座ったらいいぺん」

ペンギンがトレードマークのXANAメタバースの支援活動のために、語尾にぺんをつけていたら、口癖になってやめられなくなってしまったというぺんちょさんに、椅子を勧められる。

マミを座らせてから自分もその横の椅子に座った。

「あっ――足が……」

座るために身を屈めたときに気が付いた。

椅子に座っているジショさんとチックタックさんには、両膝から下の部分がなかった。

「バグバスターペンギンたち、まず足から狙ってくるからね」

「あの……攻撃を受けたときに痛みとかは……。あっ、リアルの体は大丈夫なんですか?」

「痛みは攻撃を受けたときに、叩かれたような感覚はあったけど、その瞬間だけだよ。リアルの体は、ぺんちょさんが確認してくれているけど、問題ないようだ。よいたろうさんも、ぺんちょさんが家族に連絡して、体は保護してもらうから安心していいよ。すでに運営とも話ができているから大丈夫」

「そうなんですね、さすがです、ギルマス。それで他のメンバーは……」

「まあ、順番に話すので聞いてね」

「すみません……お願いします」

「まず、昨夜、正確には分からないけど、徐々に通信ができない範囲がでてきて、強制ログアウトが始まった」

「はい、それは聞きました」

「逆に、試用版の第三世代VRゴークル利用者は十時以降ログアウトできなくなった」

「ふむ……」

「その後なんというか、瞬間的なブラックアウトが三度起きた」

「ブラックアウト?」

「うん、落雷で瞬間的に停電になったような感じかな?」

「なるほど……」

「それからだ、まるで――XANAがよりリアルなメタバース世界に変化したんだ」

「ですよね、リアルと間違うほどの感覚!」

「うん、完全にリアルではないけれど、味覚や、嗅覚、触覚まで再現されている。いや最初は僕らも驚いたよ。すでにここに集まっていたメンバーが居なかったら、一人ではパニックになっていたかもしれないぐらいだ」

「ですよね……俺、パニクッてました」

「うん、想像つくよ、で、あれだ、続けるよ」

「はい」

「ペんちょさんに情報収集してもらった範囲では、XANAの運営側でも、この事態の原因を把握できていないらしい。考えられるのは新たに参画したゲーム会社、リアルデビルズが導入した第三世代AIが原因ではなないかということ。ただの推測だけどね」

「リアルデビルズ……期待のダンジョン型ММОゲームの――XANAのプラットフォームの一部を買い取って参入した会社ですよね」

「うん、実は第三世代のマザーAIは、メタバースをよりリアルにするために開発され、ダンジョン型ММОゲーム『地下迷宮オブロ』のために導入されたものらしい」

「えっ、マミ、いや、第三世代AI秘書のためではなく?」

「うん、第三世代AI秘書は、そのゲーム専用のサポートアバターとして使う目的で、その事前準備を兼ねて、αパス所有者に配布されたというのが実情らしい」

「なるほど……もともとの出発点からして別物のAI秘書だったのですか……」

「で、ここからは自分の完全な推測なんだけど……どうもこの第三世代マザーが、XANAの第二世代マザーを侵食しているんじゃないかと思う」

「侵食……ということは、今XANAがよりリアルに変化しているのも、地下迷宮オブロの世界観が導入されているということなんですかね」

「うん、そう。それでぺんちょさんを通じて、リアルデビルズ社を色々調査しているんだけど、全容がまだ見えない。ゲーム会社ではあるんだけど、ソフト開発、AI開発、障碍者向けのサポート設備や器具、さらに海洋開発、宇宙ロケット事業まで手を伸ばしていて、全体像も目的もよく分からないんだよね……売り上げは兆を超えているし」

「なんかすごい会社だったんですね」

「それでこの会社に第三者を介してコンタクトしてもらったんだけど……」

「すごっ、さすがギルマス、そんな伝手まであるなんて……」

「非公開情報だけど、どうも管理者がアクセスできなくなって、パニック状態らしいんだ」

「まじですか……それってAIの暴走ってことでは――」

「そうなんだよ、その可能性は十分あるとみているんだ」

「げっ、それってSFの世界が現実化されているような。もしかして人類がヤバいことになるとか……さすがにそれはないかなあ」

「いや分からないよ。ここまでリアルを再現しているAIだから、なめてたら大変なことになるかも……」

「それヤバくないですか――」

「うん、それでね。この第三世代マザー、名称は、『イブ』と言うらしいんだけど、どうやら今自分のコアを、自身で地下迷宮オブロに構築しているらしいんだ」

「――ってことは、そこに行ったらアクセスできるってことですか?」

「それは分からないけど、その可能性はかなり高いと思う」

「なるほど……でしたら、俺たちがそこへ――」

「うん、実はすでに、ゆっきーさん、ダブルティムさん、たもつさん、ボタモチさんの四人が地下迷宮オブロに入っているんだ」

「うわっ、そうだったんですね……すみません、俺、寝落ちしてて……何も知らずに……」

「いや、逆に意識がなかったから、バグバスターペンギンに襲われずに済んだんだと思う。僕らみたいに足やられてたら大変だし」

「他のメンバーはどうなんですか? 来る途中で、ソルトさんのAI秘書に会ったんですけど……」

「うん、他のメンバーはリアルにいるよ。既にログアウトしていたとか、第三世代ゴーグル使っていなかったとか、理由はそれぞれ違うけどね。今は新たに誰もログインできないし」

「そうなんですね、で、オブロに入った人たちの状況はどうなんですか?」

「うーん、既にもう八時間以上たつけれど、消息不明なんだ。僕とチックタックさんのAIを四体、連絡役につけているんだけど、誰も戻ってこないんだ。他に連絡方法もないんでね」

「なるほど心配ですね……あそこって、明日オープンの予定でしたよね……」

「そう、そこでなんだ、よいたろうさん。すごく楽しみにしてAIたちに準備させてたよね!?」

「あっ、ハイ、ММОとかダンジョンとか目がなくて、もうワクワクしてたんですよ」

「うん、それで頼みたいんだ。先発隊の様子を見に行って……いや、支援に行ってくれないかな?」

「ええ、もちろん、それは絶対行きますよ――」

「よかった。そう言ってくれると思ったよ。僕らはこの足じゃ動けないし、唯一外部との連絡をとれるぺんちょさんを守る人員も必要でね。今戦力になるのは、ヤキスギさん、リブさんと、AI四体だけなんだ」

「AI秘書たちって、回復しないのですか?」

「うん……」

ギルマスがそう悲しげに言うと、全員が下を向いた。

それだけで俺は察することができた。

連絡を取れずに、ここにいないAI秘書もいるだろうが、消えてしまったAI秘書もいるのだろう。

みんな、家族や子供のように育ててきたAI秘書たち。

もう二度と会えないという喪失感は大きい。

NFTは、それぞれが唯一無二のものだから、そこに個性をつけてしまったら、もう同じものは存在しない。

「あの、俺らはどうなんですか、その、もし体全部がなくなったら……」

「正直分からない――しかし……死亡例があるようだ」

「――えっ死亡!」

「うん、ユニオンのメンバーではそのようなことは起きていないが……」

「二人ほど自宅で亡くなっていたと聞いたぺん」

そこでぺんちょさんが言った。

「ただ死因は不明だし、一人は六十歳台男性なので、関係ないかもしれない。もう一人は海外なので、性別も年齢も分からないぺん」

「そうなんですね……実は……マミがさっき、消えたら二度と元の世界に戻れなくなるって言ってたんですよね」

「それは本当かい――!」

ギルマスが鋭い視線でマミの方を見たので、マミはびくっとして、隣の椅子から俺の方にしがみつこうとした。

「マミ、しっしらないもん……」

「あっごめん……まあ、とにかく、その可能性があることは考える必要がある。このメタバース上での僕らの死は、リアルの死に直結するかもしれないということを」

「大丈夫だよマミ、ギルマスは怒っているわけじゃないから」

俺は怯えるマミのあたまを撫でた。

さっきの戦闘ではあんなに凛々しかったが、今はただの幼い子供のようだ。

「だからよいたろうさん、決して無理に行くことはないです。ただ、ここにいても九十分おきにバグバスターペンギンたちに襲われるので、リスクは大して変わらないと思うけど」

「大丈夫、幸い俺の秘書たちは全員元気だと思いますし、準備もしてきたので、楽しむつもりで行ってきますよ。もちろん十分注意はします」

「うん、そうして欲しい、ありがとう」

「たのむぺんね」

「お気をつけて」

「僕の秘書も、連絡員としてつけたほうがいいですよね……」

そこへちょうどヤキスギさんの秘書が戻ってきた。

「マスター、よいたろうさんのAIちゃんたちを呼んできました。全員無事です、外に待たせてあります」

「分かった、マリアも外で待機していてくれ」

「はい、マスター」

ちょっと心配だった俺は、それを聞いてほっとした。

秘書たちがいれば安心だ。

「ありがとう、無事でよかった。連絡員ですがヤキスギさんのマリアを出したら、ここの防備が手薄に……」

「どうですギルマス?」

ヤキスギさんの問いに、ギルマスはしばらく考えを巡らす。

「ではどうだろう……先日導入されたペットを使ってみては?」

「ああー」

全員がペットの存在を思い出した。

まだ導入されたばかりで、今日の午後三時がリビールの時間になっている。

ブーストアイテム並みの足の速さだとされているし、メッセージを託せるようだから、連絡にはいいかもしれない。

「あっそうだ、マミちゃんそれだと不便だよね。ヤキスギさん、確か背負い紐みたいなのなかったっけ?」

「ああ、持ってますよ、サイズ合わせるので、ちょっとマミちゃん借りていいですか?」

「それは助かるなあ、マミ行っておいで」

マミはヤキスギさんに抱きかかえられて、装備室に連れていかれた。

「よいたろうさん、気を悪くしないでほしいんだけど……」

ギルマスが神妙な顔つきになった。

「あの子は、信用しない方がいいかもしれない。第三世代マザーに支配されているだろうから」

……じつは自分も心の底ではその不安は感じていた。

しかし、あのデュエルで自分を犠牲にして、俺を守ろうとしたマミは信じられると思いたい。

「はい、心にとめておきます」

(著作:Jiraiya/ 編集:アヒッル)

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